殺し屋、やってます。 / 石持 浅海

アマゾンの内容紹介曰く「殺し屋が解く日常の謎シリーズ」。確かに前半部はコロシのターゲットとなる人物の奇妙な行動の裏を、推理ならぬ妄想していく展開がソレっぽいものの、後半へと進むにつれて「日常の謎」だけでなく、依頼者のフーダニットやホワイダニットを探り当てていく趣向もしっかりと用意されているため、日常の謎のホンワカしたミステリじゃなァ物足りないゾ、なんて御仁もどうかご安心を。

収録作は、コロシの標的である保育士の女性が真夜中の公園で水筒の中身を捨てるのは何故?という謎解きから現在進行中のおそるべき事件が明かされていく「黒い水筒の女」、これまたコロシの標的で、ガキもいない癖に紙おむつを買っている男の背景をたぐり寄せていく「紙おむつを買う男」、ママ同伴でコロシの依頼に訪れた人物の真意とは「同伴者」、何度も何度もコロシの依頼をしてはキャンセルする人物の謎「優柔不断な依頼人」、吸血鬼が殺ったような見立てをオプションでお願いしてきた依頼者の隠された真実「吸血鬼が狙っている」、同部屋で同じ名前を名乗って生活している二人の女性からコロシの標的を探り当てる「標的はどっち」、殺し屋自身にコロシの依頼がやってきたことをきっかけに自ら探偵となって依頼者の正体を暴いていく「狙われた殺し屋」の全七編。

「殺し屋が解く日常の謎シリーズ」とあることから、おそらく当初の企画としてはずーっと日常の謎っぽい設定で押し通すつもりだったのが、中盤からややネタ切れしてきたため謎解きのベクトルを変えてきたのか、後半部は依頼者のフーダニットやその背景を探り当てていく展開に路線転向されているため、個人的には愉しめました。とはいえ、「日常の謎」ド直球たる冒頭の「黒い水筒の女」しかり、それに続く「紙おむつを買う男」しかり、コロシの標的たる人物の奇矯な行動の背後で進行する、現在進行形の隠微な事件を暴き立てる展開は、正統な「日常の謎」で魅せてくれます。

短編ゆえ、ロジックについてもアッサリまとめられているものの、思いつきの可能性を次々と列挙しつつ、それらをことごとく排除していった最後に行き着く背後の事件の真相はなかなかに強烈。その一方で、殺し屋にして探偵たる主人公の語り口はカジュアルという対比が石持風味で興味深い。また「黒い水筒の女」は、隠微な事件の動機の捻れっぷりの斜め上をいくところも見所で、この異様さもまた作者らしい黒さに満ちあふれていて素晴らしい。

「同伴者」と「優柔不断な依頼人」は、依頼人のフーダニットを指向した物語で、「同伴者」では依頼にきた人物像の奇妙な点から、二人の関係を明らかにしていく推理をさらりとまとめているところが秀逸です。「優柔不断」の方は依頼のキャンセルが繰り返されるという異常な行動のホワイから依頼者の背景を炙り出していく展開がキモ。とくに「優柔不断」は依頼者が誰かとというフーダニットものとしてはかなりイイ感じに決まっています。

「吸血鬼が狙っている」も、仕事を終えてから依頼者の正体を探っていく展開ですが、ここではどうして殺し屋に依頼したのかという動機も含めて、依頼者の悲哀をさらりと添えた真相が泣かせます。「標的はどっち」は、ターゲットは誰なのか、というタイトルそのものの謎が、斜め上を行く二人一役(?)を生活を送るターゲットの生活様態が明かされていくうち、どうして二人でそんなことをしているのかという動機の謎へと変奏されていく展開がいい。そして相手の心中を思い計りながらそれがコロシの依頼へと発展していくある過程を、推理ならぬ妄想でドラマにしてしまう作者の力量にもう脱帽。

「狙われた殺し屋」は、殺し屋自身がコロシのターゲットとして依頼されるという、おかしな発端から、殺し屋自身が依頼者の正体を推理していきます。「標的はどっち」のねじくれ具合に較べると、意外にド直球なフーダニットで進行していくところがやや物足りなく、その動機も安直ながら、探偵たる殺し屋が仕掛けた罠がキマって幕引きとなるところなど、見せ場もそれなりに用意されていて愉しめました。

件の殺し屋稼業を営むチームの人たちがごくごくフツーの人物像でありながら、殺し屋というトンデモなものを副業としているところが石持ワールド。ただ昔みたいに狂気や異常を想像の斜め上を行く筆致で見せてくれた風格は薄く、昔からのファンほど物足りなく感じるところもあるような……。ホンのちょっとだけ石持ワールドの狂気に触れてみたい、なんてビギナーには案外ハマるきっかけと一冊といえるかもしれません。

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