LOST 失覚探偵 (上) / 周木 律

講談社ノベルズの「堂」シリーズは、出てくる建物が必ず○るのが見取り図を一瞥するだけで丸わかりというところから、ニヤニヤしつつ斜めに構えて読むのが当たり前。それが『災厄』や『アールダーの方舟』、『暴走』といったノン・シリーズで評価は一転して、今や『症』シリーズでベストセラー作家の仲間入りをした作者の新しいシリーズもの(長い)。

事件に関わり、頭をフル回転させて謎解きをする「収斂」なる作業を駆使するたび感覚のひとつが失われていくという、かなりの謎設定を据えた探偵の造詣にまず「??」となってしまうのですが、物語の構造そのものはシンプル至極。宿敵との決着で探偵業を引退した「失覚探偵」が、ある事件をきっかけに再始動する、――という話。

京極堂に『木島日記』『北神伝綺』っぽい厨二病やBエロテイストも添えた物語世界は魅力的。作者ならでの読みやすい文体とも相まって、「やァ」「あァ」「らしくないなァ」「ッてことは」「まァ」「売りゃァいい」「しちゃァだめだ」「まッたく」「じゃァ」「……あァ」「そりゃァ」「困りゃァしない」「不思議じゃァない」「とぼけンなよ!」「戻れないッてか?」「はッ!」「タマじゃァない」「首括れッてね」……ってキリがないので割愛しますが、こうしたカタカナまじりの言い回しが気にならなければ、案外すらすらと読めてしまうンじゃないかなァと思うンですが、このあたりは読者の好き綺羅があるかもしれません。

上巻にあたる本作では二つの事件が発生し、いずれも獄舎という密室で自然発火したように丸焦げになっていた屍体や、舞踏会の夜、ついさっきまでピンピンしていたのにイキナリ木乃伊となって便所から出現した屍体など、怪異をロジックによって解体するという、本格ミステリの定石をシンプルにトレースした展開は見慣れたものではあるものの、本作の場合、探偵vs宿敵の黒幕という構図を背景に、事件のいずれにも探偵の宿敵となる人物の影を添えて、多重化された操りの構図を配した趣向が面白い。

特に第一の事件においては、実行犯と思しき人物のイージーなハウダニットをアッサリと明かしつつ、その人物の背後にさりげなく隠れていて操りを行っていた人物の、常軌を逸した動機を明かしつつ、さらに黒幕の存在を仄めかてみせたりと、なかなかに手が込んだ構成が秀逸です。獄舎という密室の陥穽をついて発火現象に直結可能であろう現象を早くに開陳しておきながら、敢えてソレを殺害方法には用いず、推理後段のホワイダニットに埋め込んだ誤導に自分はアッサリと欺されてしまいました。

第二の事件も一応の科学的知見を添えて犯行方法を明かしてみせるものの、実行犯の背後に隠れて居る黒幕の存在を明確にして、犯罪予告とも思える奇妙な文書から連続殺人事件を予感させる次なる展開へ繋げていく見せ方も心憎い。

タイトルにもなっている「失覚」ですが、これは単なる設定だろうと思っていたら、作者の後書きに曰く、

その背後に見え隠れする黒幕の謎に、何よりも「失覚の病」とは何か、その謎に、戦後のまだすさんだ雰囲気を色濃く残す昭和二十年の東京という舞台を想像しながら、読み進めていただければありがたい。

とあるので、探偵が抱えている「失覚の病」も単なる設定ではなく、一つの大きな謎として最終的には解明される様子。視覚を三つに分けているところはちょっとズルいという気がしないでもないのですが(爆)、すべての感覚を失った後に発動される探偵の謎解きはどのような形で描かれるのか、とか――その後の展開に興味が尽きません。本作上巻はまだまだ序盤ゆえ、この後、黒幕との対決がどうなっていくのか愉しみにしながら中巻を手に取ってみたいと思います。

LOST 失覚探偵 (中) / 周木 律

LOST 失覚探偵 (下) / 周木 律

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