自分を愛しすぎた女 / 大石圭

大石作品の中では駄作にカテゴライズされてしまうであろう一冊で、実際アマゾンでも低評価のレビューが並んでいるのを確認するにつけ、やっぱりなァ……と嘆息してしまいました。しかながら、あくまで個人的感想としてではありますが、嫌いじゃありません。物語は自己承認欲求を極度に肥大させた拒食症の派遣女が、トンデモないことになるまでの一日を描き出したというもので、ふだんと違って、物語の時間軸をたった一日に限定しつつ、そこへ作者得意の様々な過去の逸話を大盛りにして一丁上がりィ、――とこれだけでアッサリ終わるわけではなく、後半はちょっと予想を裏切る展開で吃驚しました。

娘を溺愛するキモ親父の猛プッシュで様々なオーディションを受けるもののすべてに撃沈、子役スターをもくろむ夢が潰えた挙げ句、この親父にレイプまがいの扱いを受けるわ、両親は離婚してヒステリーな母親に引き取られるや、とんでもない虐待を受けるわと、ヒドすぎる少女時代を過ごしたにも関わらず、ヒロインの「他の誰よりも綺麗な私がこんなことで終わるわけがないジャン」と妙な自信だけは人一倍。そんな彼女も”売り時”を過ぎて、派遣OLはクビになりそうだし、こうなったら夜のバイトでロックオンしている金持ちのボンボン(ウーパールーパー似のデブ)につり上げてもらうしかないッ、……と思っていたら、その夜はついにボンボンからのお誘いがあって有頂天。彼女はこの勝負に挑むのだが、――とここからの展開はかなり意外。

冒頭から拒食症のヒロインは激しい頭痛と突然の動悸に苛まれており、こりゃあ、絶対に最後はヒロインはアレして終わりだろうと思っていたら、ある出来事によってついに自分の”願望”を叶える、――という「絶望的なハッピーエンド」で幕引きとなる展開で魅せてくれます。こんな薄くて中身のない物語といえど、まさに大石ワールドならではの堂々たる風格を持っているところは秀逸ながら、疵があるとすれば、マッタク感情移入ができないヒロインの造詣でしょうか。自己愛が激しすぎるひとというのは、男であれ女であれ同情も感情移入もできないのは当然の理で、この嫌すぎるヒロインの一人語りにワクワクできるかどうかで、本作の評価は二分されるような気がします。

もちろん、ヒロインがウーパールーパー男にトンデモないSM行為を強いられる描写においては、大石小説定番の口淫肛虐も交えて、そういう趣味がある人にはそれなりに愉しめるのではと推察されるものの、作者の小説を追いかけてきた読者であれば、このサンプリングに新鮮味は薄く、おそらくはフツーに読み飛ばしてしまうのではないかと。しかしながら、個人的にはこのヒロインは絶対にアレするだろ、と思っていた予想を完全に裏切るように「絶望的なハッピーエンド」をキメてくれただけで評価は一転、ヒロインのイヤ過ぎる造詣にも関わらず、読後感は意外にも爽快至極という奇妙な味を持つ一冊でした。

薄いからといって大石小説の入門編としては決してオススメできませんが、ともあれ「絶対にそうなるだろ。このヒロインはアレするだろう」という期待を裏切る結末に少しでも興味を持たれた方には読む価値アリ、だと思います。

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