おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱 / オキシ タケヒコ

不思議な小説。あらすじは、十何年もの間、とある屋敷の座敷牢に閉じ込められている娘っ子に怪談語りを続けてきた新聞配達のボーイが、胡散臭い男の登場をきっかけに世界の深淵を知ることになり、――という話。

怪談語りや、座敷牢の少女など、その外観はホラーや怪談など”そっち系”なのですが、ほとんどの読者は前半に明示されるこの物語世界に「怖い」と感じることはないのでは。ボーイの視点から飄々、淡々と描かれる彼の周りの日常生活と、座敷牢の少女との交流にはむしろライトノベルっぽい軽さがあり、催眠術や心理学を用いたペテンを得意とする男の登場にいたって、座敷牢の少女の正体が怪異へと転化する可能性を意図的に排除しているように見受けらるものの、これこそが作者のたくらみで、後半、夢と現実のあわいを彷徨う主人公の意識から彼岸の存在が明かされる展開はホラーというべきか、SFというべきか、――するりと読者の思惑をすりぬけて物語の外観をまったく新しいものへと変容させてしまう手法に果たして保守的な読者がついてこれるかどうか。ナンじゃこりぁ、という感想も勿論アリでしょうし、この変わり身をスリリングと受け止めるかで、本作の評価は大きく変わってくるような気がします。

作者の背景にはまったく予備知識なく本作を手に取った自分ですが、後半を読み進めている間、ずーっと半村良の『妖星伝』のことが頭の中にありました。座敷牢の少女の背後にいる異形の存在やこの世界観については『妖星伝』にも通じるところがあるような、……と感じるのは自分だけでしょうか(あともう一つ半村良絡みで挙げるとすれば、前半に語られるある実話怪談はマンマ「箪笥」ではないかと)。

そしてこの異形のものたちの背景に、リアルな環境問題を重ねて、現実世界における怪談の危機として明示した作者の主張も興味深い。このあたりも『寄生獣』以降の物語世界ではほとんどの読者が納得しうるものではないかと思うのですが、敢えてそこで踏みとどまり、壮大な大風呂敷をブチまけるのではなく、あくまで主人公のボーイを中心に据えた日常として描き出したところも好感度大(このあたりも半村良っぽい)。

座敷牢の少女の謎を巡る物語はミステリっぽくもあり、少女との出会いはボーイ・ミーツ・ガールの青春物語でもあり、はたまた実話怪談を交えて現代における怪談”物語”の消失と危機を裏テーマに据えた作風は怪談でもありホラーでもあり、最後に明かされる彼岸の世界との関わりはSFでもあり、――というふうに様々なジャンルを横断する物語でありながら、決して折衷主義というわけではなく、そのすべての要素を易々と呑み込んでボーイの日常として抑制的に描き出した手法が素晴らしい。物語を読了したあと、作者紹介に眼を通すにいたって、SF畑の人であることを知り、なるほどと納得した次第ですが、なにものでもあり、なにものでもないオリジナリティはかなり貴重。

講談社タイガから刊行されていなければアッサリとスルーしてしまうところでした。怪談好き、青春物語ラブな読者にオススメしたいと思います。

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