読み進めている間は「作者らしい構図の妙が光る佳作だナ……」なんて感じでいたら、最後の最期で目が点になってしまいました。そこにコレを仕掛けておくか、と呆気にとられてしまった次第です。
あらすじは、――昭和初期、いくつかの刺殺死体が発見されるものの、新しい屍体には刺し傷が減っているという奇妙な符号のほか、彼らの間に交友関係は一切なし。全員が金策に奔走していたという唯一の共通項から警視庁の特別捜査隊が、事件のミッシング・リンクを探り当てようとするのだが、――という話。
特別捜査隊を統べる主人公が、聡明な娘のアドバイスから捜査の緒を摑んでいくというシーンと平行して、ガイシャと思しき人物が借金を背負った挙げ句、ワルに絡め取られて、カイジっぽい奈落世界へと堕ちていく様が描かれていきます。この二つの線から、不連続殺人事件の連続性を明らかにしつつ、事件の構図を炙り出していく丁寧な展開がいかにも作者らしく、すらすらと読み進めていくと、やがて物語はワルの口利きによって参集した人物たちの心理ゲームへと推移していきます。そこから真の首謀者を探り当てるフーダニットへと変転していく構成が絶妙です。
とくにワルと気弱な借金マンをごった煮にして後半の心理戦をグイグイと進めていく展開は本作の見所の一つで、生き残りを賭けた騙しあいの結末はいったいどうなるのか、特別捜査隊の捜査シーンと重ねて、その人物に焦点を当てていく最後半は、しかしながら存外にアッサリと終わってしまいます。事件の構図は中盤でかなり明確に読者の前へと提示されているし、最後に残った人物がコレでは、――と驚きの薄い結末に、それでも後半の心理ゲームが相当に面白かったので、まあ作者らしい佳作かナ、……なんて感じで後日談的に語られる最終節をボヤーッと読んでいたら、いきなり吃驚な事実を大開陳してジ・エンド。
確かに物語の途中で相当に心が重くなるアクシデントが発生したものの、それがかなりアッサリとスルーされていたことへの違和感はあったものの、まさかまさか、これが最後の仕掛けの巧妙な伏線であったとは思いもよらず、豪快にヤられてしまいました。
事件の構図の丁寧な隠し方と見せ方など作者らしい構成を備えつつ、そうした作者の持ち味とは異なる意想外な仕掛けをブチまけて、イッキに怪作へと昇天した本作。個人的にはかなり好みですが、最後の驚きについては好みの分かれるところカモしれません。もちろんそれを除けても、「作者らしい」丁寧な作風を所望する読者の期待は決して裏切らない逸品として評価できるし、何よりも作者がこういう仕掛けに通じていたという事実は嬉しい発見でありました。
作者のファンであればもちろんのこと、最近はあまり見かけない”こういう”仕掛けを求めている読者には大いにアピールできる一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。
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