公開法廷:一億人の陪審員 / 一田 和樹

最高にグロテスクで気持ちワルイ小説(褒め言葉)。別に内臓が飛び散るわけでもなし、生きたマンマ体が切り刻まれるみたいなスプラッターなシーンがあるわけでもないのですが、読んでいる途中、あまりの気持ち悪さに吐きそうになりました(半分ホント)。

あらすじはというと、陪審員制度をイマ風に拡大して罪人かどうかはぜーんぶネット投票で決めちまおうゼイ、――という、ともすれば漫画チックな制度がリアルで施行された近未来の日本を舞台に、その背後に暗躍する陰謀をヒロイン(?)の視点から描き出したというものなのですが、一応、前半部はそれらしい事件が短編小説フウに提示され、国民総陪審員の模様が活写されていくものの、「ポスト真実」なるキーワードとともに明らかにされていく「真相」は、本格ミステリ的なソレとは大きく異なるものであるところが本作の最重要ポイント。

真実を巡る物語を完全に放擲した趣向ながら、そうした世界に疑問と疑惑を抱いたヒロインの視点から、読者の依って立つリアル社会の現実が語られていくという虚実を二重写しにした構成はもはや作者の真骨頂。後半へと進むにつれ、公開法廷に輪を掛けて気持ちワルイ「デジタル隣組」なる制度についての説明がなされるのですが、ヒロインを自分のようなロートルに近い立ち位置とし、こうした気持ちワルイ制度についてそれほど疑問を抱かないヤング世代と対照させつつ、”物語”の舞台装置の細部とその背景を明らかにしていく新設設計も秀逸です。

“物語”世界がそうした小説技法によって説明される一方、人間”ドラマ”が薄い、――というよりはまったく感じられないように見えてしまうのも、おそらくは作者の狙いのひとつである筈で、確かに日本を悪い方悪い方向へと「改革」していく黒幕の存在こそあれ、公開法廷で裁かれる被告はもとより、陪審員として参加する大衆や、そうした不信を暴こうとするヒロインをはじめとする登場人物たちでさえ、この”物語”世界においては国体を維持するための捨て駒に過ぎないわけで、個々人の人間的価値などまったく顧みられないディストピアをより緻密に描き出すとすれば、この人間不在の小説的構成はいわば必然であろう、――という気がするのでが、いかがでしょう。

しかしグロテスクな社会・世界のありように、バッドエンドとしかいえないヒロインの結末、さらには正義の象徴となりえたヒロインをあっさりと捨てて、人間不在の攻防を予告して幕とするこの非情な”物語”を、エンタメとして愉しめるのはいったいどういう読者なのか興味のあるところです。かなりヒロインの感覚に近い自分としては、完全にドン引きなエンディングであるとはいえ、その一方で、仕掛け人であり黒幕の思考もことに国体維持という視点からすれば絶対悪とも言い切れないところが面白い。

ツイッターをバンバン活用して、トレンドに乗り遅れるなとニッポンの炎上事件を愉しみつつ、毎日毎日何らかのポイント獲得に勤しんでいるイマドキの日本人にとっては、本作もまたエンタメとしてワクワクしながら愉しめるのかもしれません。自分のようなロートルにとっては、どんなホラー映画よりも恐ろしいディトピア小説として大いにオススメできるものの、フツーのイヤミス以上にホラー小説としての趣が強すぎるため、その点はかなり読者を選ぶような気がします。かなりの取り扱い注意、ということで。

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