本と鍵の季節 / 米澤 穂信

いかにも作者らしいビターな風味を効かせた一冊でありました。物語は、高校の図書委員を務めるボーイ二人に持ち込まれた依頼から、その裏にある隠微な思惑を見抜いていく、――というものがメイン。収録作は、祖父が遺した開かずの金庫を開けてほしいという依頼を受けたものの、番号解読の過程で依頼主である先輩ガールの真の目的を射貫いてみせる「913」、ヒョンなことから訪れた散髪屋での店主の発言の真意から現在進行形の出来事を繙いていく「ロックオンロッカー」、犯罪の嫌疑をかけられた兄ィのアリバイを証明するものを探し出してほしいという依頼から、とある家族の陰影を描き出す作者らしいビターな一編「金曜に彼は何をしたのか」、ある本を探してもらいたいという図書委員にとっては至極真っ当な依頼から、依頼主の思惑を暴き立てる「ない本」、主人公二人の昔話から始まったモノ探し「昔話を聞かせておくれよ」と、その苦すぎる後日談「友よ知るなかれ」の全六編。

「ロックオンロッカー」を除くと、家族が大きな裏テーマになっているのではと思わせる一冊で、一発目の「913」からして、祖父が遺した開かずの金庫の鍵となる番号を探り当てて欲しいという依頼を先輩女子から受けた二人が、家の中で推理を巡らせていくいう展開なのですが、そうした表向きの見せ方の裏で深く静かに潜行する隠微な目論見を暴き立てていく気づきが素晴らしい。一件ナンでもないような謎の背後に見え隠れする邪な構図を気づきと推理によって明らかにしていく結構は日常の謎ミステリの定型ながら、やはりこの作者ならではの苦ーい味付けがなんともいえません。

「金曜に彼は何をしたのか」も、兄イに犯罪の嫌疑がかけられたものの、無実を信じる弟から兄のアリバイを証明してもらいたいという依頼を受けた探偵役二人が、部屋の中に残された物証などから、犯行日時における兄の行動を探り当てていく、というもの。アリバイ探しが転じて、その行動の背後に隠された動機を明らかにしていく後半への繋ぎが秀逸です。

「ない本」は図書委員という探偵役の設定をフルに活かした一編で、ある本を見つけてほしいという依頼から、それがタイトル通りの「ない本」であることを、図書委員ならではの知見によって暴き立てるという展開なのですが、ここでも冒頭の「913」にも通じる、依頼主の動機へと迫っていく後半のひねりがとてもイイ。

依頼内容そのものから、その依頼の動機へと転じていく展開が味わえるのは、「昔話を聞かせておくれよ」も同様で、こちらは探偵役の二人が他愛もない昔の話をしているなかから、その昔話をリアルへと落とし込んでいくなかでブツ探しへのプチ冒険へと転じていく動的な展開がまた秀逸。一見すると一直線に見える構成の中に、昔話の語りを”騙り”ととして、現代本格的な操りへと転化させた仕掛けが心憎い。

そして「昔話を聞かせておくれよ」の後日談とでもいうべきラストを飾る「友よ知るなかれ」では、聞き手役であったボーイが語り手である探偵の過去に隠された苦い真実を解き明かしていく一編です。「昔話」と繋げることで、二人の関係がこの謎解きのあとにどう変わってしまったのかと非常に気になる終わり方ながら、……果たして続編はあるのか否か。

ともあれ、作者ならではの青春物語に格別なビターテイストを添えた秀作揃いの一冊ゆえ、ファンであれば十二分に愉しめるのではないでしょうか。オススメです。

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