骨を弔う / 宇佐美 まこと

傑作。昨年の刊行ラッシュの一冊で、アマゾンの感想に目を通しても激賞からダメ本認定まで大きく評価が分かれている印象のある本作。傑作だと確信しつつも、作者の作品をデビュー作から読んできた自分としては『熟れた月』の“癒やし”や『少女たちは夜歩く』の幻想性の方が好みだったりします。とはいえ、最近になって作者の作品を手に取った読者にとってはまずは必読の一冊に違いありません。

物語は、ガキの時にやたらとアクティブな不思議ちゃんの先導されるまま、学校の骨格標本を山奥へと埋めにいった男女が、大人になってからとある新聞記事をきっかけに、あの骨って実は人骨だったんじゃァ……だったらいったいそいつは誰なのよ、という疑問を抱くにいたり、その真相に推理を巡らせ、――という話。

冒険のリーダーだった不思議ちゃんはどうやら病死しているらしく、彼女から直接コトの真相を聞き出すことは叶わない。そこで残されたうちのひとりが散り散りになった昔の仲間に声をかけて、あのときの出来事にまつわるエピソードを掘り返していくのですが、曖昧な昔日の記憶を辿って推理を巡らせるという、――本格ミステリでもよく目にする趣向からはやや離れて、登場人物たちの過去と現在とを巧みに重ね合わせて、過去の出来事への探求を端緒に、彼ら彼女たちの視点からそれぞれの現在の変化を明らかにしていく展開が心地よい。

DV男の議員の妻となった奥様の日常地獄や、震災で家族を失った男の悲哀を描く中盤までの展開がなかなかに重苦しく、気が滅入るところもあったりするのですが、彼らが昔の出来事の真相を辿っていくことで、現在の苦悩を超克していく後半部は抜群に心地よい。 骨格標本が実はリアルな人骨だったのでは、というのは読者もまた当然に期待している真相ながら、その被害者たる人骨のフーダニットをとっこに、当時は奇妙に思われた各人の行動の真意が逆転していく推理が秀逸で、特にとある老夫婦の不可解な行動はそれだけでも十二分にモダン・ホラーっぽくあるのですが、そこから推理によって悲哀溢れる真相が繙かれていく趣向はかなりツボ。

宇佐美まことといえばやはり自分のなかでは怪談・幻想小説作家なのですが、ここではかなり実直にミステリしてます。 そしてもう一つ、おやっ、と思わせるのが、作者である宇佐美まことの名前が冒頭から登場していることで、なにかメタっぽい趣向があるのかと思いきや、これがまた最後の最期で事件の登場人物と意外な繋がりを見せて幕となる構成にはかなり驚いてしまいました。ある登場人物の逸話と、作者のやや遅いデビューから最近までの沈黙期間には何かリアルな重なりがあるのかどうか、などと勘ぐってしまうのですが、どうなんでしょう。

最近ではすでに『聖者が街にやって来た』という、よりミステリへと振り切った一冊が刊行されていますけど、あちらは事件・犯罪・捜査といったミステリの鋳型にややはめ込みすぎたきらいがあり、純粋な謎解きと構図の反転というミステリの愉悦を堪能するのであれば本作をオススメします。極上の”癒やし“溢れる読後感が心地よい『熟れた月』に対して、こちらは爽やかな読後感が気持ちイイ一冊ともいえ、いま作者の作品をまずは手に取ってみたいという方であれば、本作と『熟れた月』をオススメしたいと思います。

熟れた月 / 宇佐美 まこと

聖者が街にやって来た / 宇佐美 まこと

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