旅とカメラと私 -RICOH GR/GXRと旅する写真家たちのフォトエッセイ

たくさんの写真家の写真をまとめて見られるということで、……それも同じカメラを使っているため、写真そのもののの色合いや性能比ではなく、純粋に複数の写真家の作風そのものを比較できるのではないかナ、――という思惑と、一応GXR持ちだし、ということで購入してみました。

コンセプトとしてはジャケ帯にある通り「写真家12名が一泊二日の旅に出」て、旅先のモンを写真におさめる、というもの。この一泊二日というところが絶妙で、日帰りだとまあ、だいたい撮れるものも限定されるし、「旅」というかんじではない。かといってこれが長期にわたると、余所モンとしての視点が薄らいでいってしまうわけで、この匙加減が素晴らしい。

さらに旅先への移動手段が記されていて、森山大道や横木安良夫などマイカーを使って旅先に赴いた場合の写真と、新幹線や飛行機で長距離の移動となった場合とでは、これまた何となく写真のトーンも異なるように感じた次第です。

収録されている十二名の作家は、森山大道、横木安良夫、赤城耕一、湯沢英治、田尾沙織、渡部さとる、岡嶋和幸、茂手木秀行、藤田一咲、大和田良、菅原一剛、小林紀晴。冒頭を飾る森山氏の旅先は熱海伊豆。何だか大道写真的にはベタというか狙いすぎというか、熱海秘宝館、バナナワニ園、怪しい少年少女博物館といった場所でのショットはカラーとはいえ、氏の作品らしい妖しさの横溢した写真ばかり。またGXRを使いながら、A12ではなく、敢えてP10でラフに撮影しているあたりがまた氏らしいというか。

自分でもよく見ている森山、横木、赤城三氏の写真はこちらが期待しているとおりの作風でサラリと仕上げているのですが、ちょっと意外だったのは湯沢氏。『BAROCCO 骨の造形美』のイメージが強かったので、まずカラーであることと、被写体の細部に深く分け入る作風は『BAROCCO』と同じベクトルでありながら、無地の背景にそうした細部を浮かび上がらせるような構図の写真は少ない。ピッカーをとらえた写真だけは『BAROCCO』を彷彿とさせますが、他は一面に細部をめいっぱい取り込んだ構図が多く、『BAROCCO』だけしか見ていなかった自分の先入観を良い意味で裏切ってくれました。

十二名の写真の中で好みは、大和田良氏の会津の写真で、濃密にして艶のあるこの色合いはまさにGXRのソレで、さらにRAWから現像したゆえか、VIVIDで撮るのとはまた異なる細やかな陰影が素晴らしい。VIVIDで撮ってもこの色合いは簡単に出るんですけど、コントラストが高くなるので、ここまでのトーンは出ないよなァ……など、GXR持ちであれば写真と撮影データを眺めながら色々と盗めるところも多いのではないでしょうか。

あと、吃驚したのが、最後の小林氏の佐渡で、これはちょっとズルい(爆)。佐渡の祭りの「つぶろさし」を撮ったもので、外部フラッシュを巧みに用いて被写体を非現実的なものへと昇華させているのですが、解説にもサラリと語られているとおり、これをA12 50mmの一本で撮ってみせた潔さが素晴らしい。ちなみに収録されている写真群はやや望遠を思わせる構図のものが多く、外部フラッシュの効用と相まって、インパクトありまくりの被写体の存在感が半端ない。

解説のほか、エッセイでも写真家がそれぞれの撮影のスタンスを述べているのですが、撮りまくりの森山氏に、「瞬間」を重んじる赤城氏などの比較も興味深い。共感できたのは渡部氏のエッセイ「旅の味方」で、写真を撮る行為について「切り取るんじゃなくてザックリ風景をいただいてくる」という表現がイイ。自分のようなド素人は被写体に注力し過ぎてしまうのが常で、藤原新也氏のように「その場の空気」をとらえたり、渡部氏のように「ザックリ風景をいただ」くような撮り方は口でいうほどやさしいものではありません。

リコーのカメラのユーザであれば、収録写真の数々を眺めるだけで、「そうそう、この色はナチュラルで露出補正はこのくらいだよね」なんて当てっこも可能、さらにレンズから焦点距離、露出モード、露出補正からISO、絞りにいたるまでデータの詳細が一枚一枚に記載されているという丁寧なつくりゆえ、GXR、GRDのユーザであればかなり愉しめる一冊といえるのではないでしょうか。オススメでしょう。