先日取り上げた『名探偵 由比藤司』に続けて本作も読了。中編としてまとまった物語を読めるのは『名探偵』の方ですが、本作は極短編だからこその構成と魔術的な仕掛けが際だつ逸品・怪作揃いで堪能しました。
収録作は、名探偵の推理シーンという本格ミステリならではの外連味溢れるシーンにカー的なメタ趣向を盛り込んで卓袱台返しをブチかます「解決編」、作者ならではの時間軸の圧縮と美しい筆致がタイトルの真意を際だたせる「刹那」、タイトル通りの探偵が発狂しまくる世界観にワトソンがSFめく奇想で収束を図ろうとした挙げ句の皮肉なオチが光る「探偵連続発狂事件」。
本格の定義を巡るワイガヤにある人物のジャイアニズムが核爆発を引き起こす「紫屋敷の殺人(最終回・ラスト十枚)」、ゴーストライターを巡る語り手の失策にメタ趣向を添えてタイトルの”もどき”が苦みを添える「倒叙ミステリもどき」、見立て殺人の名作に不満を持つ男が極限状況に置かれた挙げ句に犯した犯行に脱力の推理が明かされる「「犬神家の一族」を読んだ男」、読者への挑戦状を強要する語り手の思わぬ奇手とは「理不尽な挑戦状」、警視庁刑事部の特殊部署に所属する主任が、ある境遇にある人物に無理強いをして死に際伝言の推理をひねりだす狂気の発想「最後の謎解き」。
草食系のカレシの奇妙な行動に隠された動機を巡る「暗鬼」、作者のホラー映画愛の仕込みに隠されたある映画の仕掛けが光る「そして誰もいなくなった後で」、本格ミステリでは定番のある様態にメタメタな視点を添えた世界観と仕掛けの重なりが素晴らしい「見えない殺人者」。
完全犯罪に見えた交換殺人の陥穽に作者らしいセンチメンタリズムの美しさが際だつ「君と同じ夢を見る」、真犯人も知り得ない密室トリックに奇想のエロジックが脱力を誘う「セックスしたくても出れない部屋殺人事件」、エロゲオタ高城が提起したタイトル通りの”難問”に下される苦笑必至の解決策を開陳する「エロゲ的後期クイーン問題」、「中に出す」、「ギャルゲー好きに捧げる推理小説」。
郷愁・センチメンタル溢れる筆致は作者の大きな個性のひとつで、収録作のなかでは「刹那」「君と同じ夢を見る」がそれ。とくに「刹那」は、時間軸の圧縮によってまさに語り手の走馬灯のごとき”刹那”を大胆に描き出した逸品で、名作「サクラサクミライ」もそうでしたが、取り戻せない過去を仕掛けによってドラマチックに活写する構成はまさに作者の真骨頂。
そのいっぽう、本作では物語の世界観に奇想を凝らした作品も強烈な個性を主張しているところが読みどころで、SF的奇想が本格ミステリのマニアネタへと回帰する「探偵連続発狂事件」のほか、最後の一文でその世界観の実相を明かした外連が見事にキマった「見えない殺人者」が素晴らしい。
エロゲオタ高城シリーズとでもいうべき後半の三編は、いずれも苦笑を誘う”迷”作で、小森氏のあの作品めいたネタかと身構えていたら思わぬ脱力をカマしてみせたり、あるいはカサーレスの『モレルの発明』めく奇想かと期待していると、俗っぽい真相で盛大な肩透かしに悶絶してしまう「ギャルゲー好きに捧げる推理小説」など、頭を抱えてしまう苦笑必至の短編もシッカリ収録されてい、作者の奔放な発想力を堪能できる一冊となっています。
なお後半はレビュー編となっており、なかでも「極私的飛鳥部勝則短編レビュー」は貴重。作者の飛鳥部ワールドに対する熱すぎる愛情がビンビンに感じられる文章が読んでいてとても気持ちよく、最近のネットの感想はおしなべて悪意や批判やネチっこい指摘ばかりで、……なんてウンザリしているミステリ読みの方にこそ一読をオススメしたい。
創作にレビューとバランスのとれた一冊で、作者の才能の全体像を把握するのに格好の一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。