楽園とは探偵の不在なり / 斜線堂 有紀

初読みの作家ながら話題になっているので今ごろになってようやく入手。突然「天使」なるものが多数降臨した世界において、二人以上を殺したものはその天使によって地獄行きとなる、――という特殊設定下において、天国の存在に興味津々の大富豪に招待され、妖しげな孤島を訪れた探偵が連続殺人事件に巻き込まれる、という話。

一人ではなく二人殺した人間が地獄行きとなる、というところが一番のポイントなのですが、殺人行為の構成要件たる殺意がアンマリ考慮されない天使ルールが本作のキモでしょうか。とはいえ作中の特殊設定や法則の大枠を読者に明示し、その細部に潜在する「紛れ」を盲点として精緻なロジックを構築していく話かと期待していたところ、途中でハッキリ描かれていた逸話に則った推理が展開されていく後半部はやや興醒めながら、個人的には二人殺すと地獄行きというあからさまなルールの裏で、天使という存在を利用したあるトンデモない仕掛けにおおっ!?となってしまいました。特殊設定を活かした本格ミステリながら、それをロジックに全振りすることなく、この世界に存在する異物を巧みに利用したトリックの趣向が面白い。

また探偵の過去の逸話を要所に挿入しながら現在進行形の事件の経過を繙いていくことで、探偵の再生を鮮やかに描き出した人間ドラマの一編に仕上げた構成も素晴らしい。ロジックを支える世界の法則と設定の緻密さにこだわる方であればやや点が辛くなるのでは、と推察されるものの、事件の生起と再生を通じて探偵の人間ドラマを描いた一編としてはかなり愉しめる逸品といえるのではないでしょうか。