あの子の殺人計画 / 天祢 涼

傑作。社会派でありながら騙りの技巧に多層的な仕掛けを凝らした、――まさに「仕掛けによって人間ドラマを描き出した」一冊で、堪能しました。

物語は、シングルマザーの元風俗嬢(ゲキヤバ美人でメンヘラ体質)から虐待を受けている小学生の娘っ子が、ボーイとの出会いをきっかけに母親の”殺人計画”を練っていくパートと、悪徳風俗店の元締め殺しを刑事たちが捜査していくパートが平行して語られていく構成で、娘っ子が当初は母親からの凄惨な虐待を虐待と認識していない、という描写がまず壮絶。彼女はあるボーイとの出会いを通じて、自分が虐待されていることを自覚するに至るのですが、そこに元締め殺しの捜査パートが精妙を絡めて、拙い”殺人計画”を実行に移そうとするのだが――という話。

刑事の視点と娘っ子の視点を交錯させた構成のミステリ、とくれば、フツーのミステリ読みであればまずこの二つの繋がりに仕掛けが隠されていることは言うまでもなく必然で、その一方、あまりミステリを読み慣れていない読者にはこの仕掛けだけでも十二分に驚くことができる親切設計がとてもイイ。

ミステリ読みであればこの繋がりを意識して読み進めて行くことになるかと思うのですが、物語が進めば進むほど、二つのパートの繋がりという「事実確認」よりも、繋がるにしても「これがアレじゃないとどう考えたってそれは無理じゃないノ?」という疑問から生ずる騙りの技巧のハウダニットへと興味が移っていくことになるのではないでしょうか。捜査する側のある人物の行動や、小学生の娘っ子の妙に落ち着いた、それでもやはり拙い思考の語りなど、脳裡に浮かぶ様々な疑問の答えが、「事実確認」のあとに次々と明かれてていく後半の展開は圧巻で、それによって各登場人物の悲壮な思いと背景が浮かび上がる濃密な仕掛けはまた一級品。

二つのパートの重なりのなかでミステリ読みであれば当然予想していたであろう仕掛けの背後に、もう一人の人物の正体を最後まで隠し仰せた作者の筆致は見事の一言で、事件が発生してしまったあとになって取り返しのつかない過去へと思いを馳せるこの人物の心情をさらりと描き出したエピローグにささやかな希望を残した最後の一文も素晴らしい。

その仕掛けの特質ゆえ多くを語ることができないのがもどかしいのですが、相当に重苦しいテーマを中心に据えながらも、娘っ子の拙い、それでいて違和感を添えた語りや、捜査する側の人物の連帯と葛藤を明快な文体で描いた物語は読み口も軽く、ミステリマニアのみならず、エンタメ小説の読者にも強くアピールできる一冊といえるのではないでしょうか。超オススメ。