シリーズ完結編。作者の『よろず建物因縁帳』に夢中になっていたさなかに始まったので、なんとなく手に取ってみた本シリーズです。読み口はまったく違って、ヒロインのドジっ子ぶりを前面に押し出した作風ゆえ、自分のようなロートルだとちょっと??――という感じがしないでもないのですが、転と結で一息に核心に迫ってみせる展開はなかなか熱く、堪能しました。
物語は、ブラック企業に内定をキメた娘っ子がどう断ろうかと悩んでいると、とある介護施設で老人たちが次々と不可解な死を遂げる事件が発生。どうやら彼らは死の直前まで悪夢にうなされてい、その夢こそはかつて探偵フロイトの両親を「殺害」した悪夢だった――という話。
前半の妙にほのぼのした展開はとりあえずダーッと流し読みしてても没問題なのですけど、プロローグで描かれる悪夢の感染シーンがかなり恐い。中盤で、くだんの悪夢の正体を突き止めるべく施設を訪れたヒロインたちは、そこでデータ取得のためひとりの人物を催眠術にかけるのですが、そこでフロイトは悪夢を感染させられてしまう。
フロイトを救うべく、ヒロインたちが様々な調査を進めていくうち、この悪夢の生起と曰くを知ることになる、――しかし夢のようで夢でないこの悪夢の正体に思いのほか既視感があったのですが、これは鈴木光司の例のアレを夢に昇華させたものだとほとんどの読者がここで気がつくのではないでしょうか。呪いのようなこの悪夢を消滅させる方法のヒントに、最初からさらりと語られていたある怪異を伏線としてあるところが秀逸で、夢と幻視を重ねて、ヒロインのふしぎな振る舞いを、第三者であるヲタ森の視点から描いたシーンが美しい。
作者の作品ですから、すべてが無事解決してハッピーエンドを迎えるところも期待通り。『よろず建物因縁帳』のような重厚さはないものの、さらりと読み通せるシリーズとして、『よろず』の熱狂的ファンでも愉しめるのではないでしょうか。