大江戸仙境録 / 石川英輔

つい最近、最終作となる『大江戸妖美伝』まで読了したのですが、実はこのシリーズ、『妖美伝』で完結していませんでした(爆)。七冊それぞれに個性的ではあるものの、巻が進むにつれ小説としての「物語」の部分より江戸知識の「雑学」が優ってき、作者の現代批判の舌鋒がますます鋭くなっていくところはご愛嬌ながら、本シリーズの要となる転時については少しずつその様相が変化していくあたり、シリーズを通してしっかりSFであるところを堅持しているあたりは好印象。

さて、シリーズ第二巻となる本作『仙境録』ですが、まだ初期ということもあってか、その風格は『神仙伝』を踏襲したモノとなっています。『神仙伝』は、現代に戻ってきたものの、いったい主人公は今後どうなっていくのか、――というあたりに含みを持たせて次作へと繋げた幕引きが秀逸でしたが、本作もこの構成を踏襲しています。

また前作からの繋がりで言えば、冒頭、主人公が住んでいるマンションの郵便受けに「江戸からの手紙」が届いてい、なんとその手紙の書き主が江戸の妻・いな吉だった、という度肝を抜く謎の提示が素晴らしい。この手紙はいかにして時空を超え現代に届いたのか、そして今この手紙がここに届けられた理由は、という尽きない謎の背後に、ある人物の存在を匂わせて物語は進んでいきます。

その謎めいた人物の正体が明かされ、主人公はいわば仲間を得たような心強さを得ることになるのですが、このすぐあとの転時のシーンにさりげなく違和感を持たせて、この後の展開に絡めた伏線としているところが秀逸です。

中盤は様々な江戸雑学を絡めてゆったりと進んでいき、後半はいな𠮷危機一髪という『神仙伝』でも見られた起承転結の「転」からハラハラドキドキの展開を経て、無事主人公は現代に戻ることはできたものの、いな𠮷はその後どうなったのか――。ここで主人公がある場所を訪れ、いな𠮷のその後の知るヒントを経て幕とした締め方も期待通りの素晴らしさ。

どうも視点はいな吉ばかりにいってしまうわけですが、本作では現代の妻である流子の微妙な変化にも注目でしょうか。だんだんにエロくなっていく流子との官能描写も今回はしっかり用意されていて、実を言うと、続く『大江戸遊仙記』ではさらにいな吉と流子二人の美女とのエロ・シーンがテンコモリ。このあたりは昭和の大衆小説ゆえのファンサービスかと軽く考えていたら、実はこのエロが主人公の転時能力に大きく関係していたことが判明するのはもう少し先のこと。

いったん読み始めると続きが気になって仕方がなく、結局一気読みしてしまうという中毒性ゆえ、カジュアルなSF読みのみならず、江戸の生活風俗を覗いてみたいという読者にも大いにオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。しかしながら江戸時代と比較して、明治から先の大戦に突っ込んでいった現代をかなり批判的に語っているゆえ、明治維新を絶対善とするような龍馬ファンには取り扱い注意、ということで。

大江戸神仙伝 / 石川英輔