守娘 上・下 / シャオナオナオ

傑作。清朝時代の台湾を舞台とした怪談ミステリ漫画。推理を主軸としたわけではないものの、怪異の存在を作中の重要人物に添えて、リアル世界における、人身売買のフーダニットを探る聡明な娘っ子の活躍が微笑ましい一品でした。

漫画ではあるのですが、ペンというより筆に見える(もしかしたら本当に筆書き?)絵柄が美しく、コマ割りや見開きで描かれた各シーンの雰囲気から、映画を観ている感覚に近いものがあります。

物語は決して一直線に進むわけではなく、娘っ子の兄嫁に対する、周囲からの「男を産め」という現代の価値観からすれば理不尽に過ぎる要求や纏足の風習などを、冒頭から描き出すことで、物語世界においては、現代社会では想像もつかない苛烈な女性差別が行われていることが読者の前に提示し、そこへ事件の謎解きを添えた全体の構成が印象的。

冒頭に描かれた女霊媒師の仕事に感銘を受けた娘っ子が、この霊媒師に弟子入りして、霊能力を身につけていく成長物語かと思っていたら、途中から犯罪事件を前面に出した展開となり、ちょっと想像していたものとは違った様子へと変わっていきます。

人身売買を生業とする犯罪集団に家の女中が攫われると、くだんの娘っ子がふしぎな人物の助けを得て、間一髪のところで助け出したりという事件の解決が上巻では描かれているのですが、この人身売買を裏で操っている首領は何者なのか、――というのが、本作のミステリとして謎。ここに当時の習俗と女性蔑視が当たり前だった物語の背景が、ある怪異なる存在の過去と繋がっていく展開がとてもイイ。

タイトルにもなっている「守娘」がその怪異なる人物なわけですが、日本語ゆえ、カタカナの読みをハッキリと開示しつつも、肝心の漢字の方は、その存在がある人物の口から明かされるまで曖昧に濁している演出が何とも心憎い。自分も読み進めているあいだ、この人物はいったい何者? ……と訝ってはいたのですが、まさかこういう存在だったとは、というおどろきとともに、もう一人、背景が曖昧な人物についても本人の口からその出自が語られ、二人の過去の因縁が語られていきます。

上巻で登場人物たちの背景が明かされ駒が揃ったというところで、主人公たるおきゃんな娘っ子が、下巻では、ある人物の家にある形で潜入を試みるのですが、ミステリとして見れば確かに想定通りの人物が事件の首謀者であることはバレバレながら、この命を賭けた(ともいえる)娘っ子の決断と思いが、怪異も交えて事件の真相を解き明かしてみせる外連が素晴らしい。

人と神と鬼がほぼフラットな形で描かれた舞台装置で展開される物語がいかにも台湾らしいという印象で、怪異の添え具合がまた絶妙。漫画としても筆書きの流麗な美しさが際だつ絵柄も愉しめる一冊ゆえ、映画のような漫画、とでもいうか。少し毛色の違う怪談漫画を所望のひとには、かなり愉しめるのではないでしょうか。オススメです。