綺譚の島 / 小島正樹

自称名探偵のわりには存外に地味な印象を受ける(爆)海老原探偵シリーズ最新作。今回も、伝説から過去の事件から現在の連続殺人事件にいたるまで怪異のフルコースといった趣のある本作、ただ今回は『武家屋敷の殺人』などとは異なり、怪異の乱れ打ちという趣向ながら、三つの時代にまたがる謎の重ね方が巧みなゆえに非常にスマート。堪能しました。

あらすじを簡単にまとめると、「よそもの殺し」の残酷な伝説のある島で、ある儀式が行われるのですが、そこで怪現象とともに人死にが発生し、――という話。今回は、過去の伝説と、二十年前の儀式に絡めた怪現象、そして現代における儀式関係者の死にまつわる怪異と、三つの時代を跨いだスケールの大きさがまずいい。

現代の事件が発生する前に、島を訪れる海老原がその土地の伝説を耳にして、何だかすでに答えが分かったようなことを言っているので、おっ、これは『十三回忌』みたいな早くも謎解きが始まるのかな、と期待していると、前半ではあっさりとスルー。しかしこの『十三回忌』とはやや異なる構成には当然深い意味があり、今回はこの三つの時代の怪奇現象を重ねた趣向が見事に活かされています。

さりげなく挿入されている儀式のシーンにも、これまたさりげなく仕掛けをひそめておくという小島式記述法も、今回はそのさりげなさゆえに素晴らしい効果をあげており、特に「よそもの殺し」の呪いを怖れる島の住人たちの禁忌と絡めてあるところには関心至極。またこれを謎解きの最後のフーダニットにもってきて読者をアッといわせる見せ方も堂に入っており、あくまで個人的感慨になりますが、犯人が明かされた瞬間のインパクトは過去作中ピカ一でした。

小島ミステリといえば、人為と自然現象の混淆によって怪異を創出してみせる手法が特徴的であるわけですが、本作では、犯人の過失や不確定要素が結果的に怪異を生み出してしまった、……という趣は過去作品に比べて薄く、伝説、過去の事件、現在の事件といった三つの時代を跨がる怪異の共通項に隠されたある人物の意図を強く打ち出した結構となっています。

そうした強い意志と隠された人間関係とを、島の因習に織り交ぜてみせることで、現代に発生した殺人事件の構図に深みと凄みを持たせているところも秀逸で、後半の謎解きは小島ミステリのお約束通りに自然現象も交えて様々な知見とともに怪異の謎が繙かれていくのですが、今回はネタの大盤振る舞いもさることながら、個人的には二十年前の事件のある怪異(灰色の木槌)の真相とその情景に『これ、絶対にバカミスだよね?』と吹き出してしまったのはナイショです(爆)。

たたみかけるように怪異の謎解きがなされる一方で、小島式にさらりと語られていた儀式の場面の仕掛けとともに明かされる或る真相と真犯人の酷薄ぶりは涙なしには頁を繰ることができませんでした、――というか、このあたりをネッチリと描かずに、存外にアッサリと書き流しているがゆえにかえって悲哀を誘うというか、今回は過去作中、もっとも横溝横溝した島の因習と禁忌が事件の構図に深く関わっているがゆえに、よりいっそう儀式の真相と真犯人に対する悲壮が際立っています。

ネタの乱れ打ちという点では、『武家屋敷の殺人』に譲るものの、明快な構成と三つの時代を跨がる怪異の構築とその意味づけなど、これだけのネタの大盤振る舞いを見せておきながら、その構成にはまったく無駄がありません。『十三回忌』や『武家屋敷の殺人』にも並ぶ、作者のそのときを代表する意欲作にして代表作といいきってしまって良いのではないでしょうか。オススメでしょう。