寺山修司幻想写真館『犬神家の人々』@ポスターハリスギャラリー

渋谷の裏路地を入って、さらに奥まった突き当たりにあるマンションの一室という、――いかにも怪しげーなカンジのところにあるポスターハリスギャラリー。実は訪れるのは今回が初めてだったりします。それもミステリマニアなんだから、寺山修司のめくるめく怪奇幻想世界を見るのがお目当てかというとさにあらず、特別展示されているハービー山口のプリントが目的でした。

――とはいえ、タイトルにもある通り展示の本丸は寺山修司で、こちらも大満足の内容で、会場の広さゆえ全体的にこじんまりとしたかんじではあるのですが、「千夜一夜アラビアンナイト」や「実在しない怪奇映画のスチール写真」など、なかなかの大きさのプリントも何点か展示されています。特にパースを活かした構図と鮮烈な深紅が眼に突き刺さる「千夜一夜アラビアンナイト」の印象は強烈。

クラウス・キンスキー演じる『ノスフェラトゥ』っぽいやつや、『ファンタズム』のトールマンを彷彿とさせる怪人を配して、怪奇映画の”いかにも”なシーンを徹底的につくりこみ、映画のスチール写真に擬態した一枚一枚は、”演じて”いるのが日本人ではないこともあってか本物感は十二分。それでいてそこはかとなく感じられるユーモアが素晴らしい。

紹介文にもある「限りなく嘘の世界を創り込むことで生まれ」る作風を突きつめていったにせ絵葉書シリーズの方は、絵葉書の部分を構成する写真の舞台装置に始まり、写真とそこに添えられた文はもとより、絵葉書そのものにまで手を入れて古びた感じをつくり出しているという、――嘘に嘘を重ねた徹底ぶりが秀逸。この手紙をものした人物像をイメージし、それを演じてみせるという『役者』までを含めると、いったい一枚の絵葉書を仕上げるために一人で何役をこなしていたのかというこだわりぶりと遊び心は、細部にまで行き届いていて、このにせ絵葉書シリーズをじっくりと眺めるだけでも結構時間がかかります。

そして部屋の奥に数枚掲げられている、カメラを持った寺山修司の写真が、ハービー山口の手になるもので、こちらは『犬神家の人々』とはうって変わって、爽やかなくらいにハービー調のからっとした雰囲気でほっこりできるという対比がいい。この写真を見ると、寺山修司はぐいぐいと被写体に寄っていくスタイルだったのかな、という気がしました。怪奇幻想の寺山修司にハービー山口というのは、意外な取り合わせにも感じられたのですが、愉しそうにカメラを構えている寺山氏の横顔などは、ハービー氏にも通じるものがあるカモ、と感じた次第です。

展示の方は九月二日までなのですが、寺山修司のファンのみならず、ハービー山口氏のファンであれば、プリントの数は少ないながらも満足できるのではないでしょうか。