前回の横須賀美術館『日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで』に続いて、先週末は横浜そごう美術館で開催されている『幽霊・妖怪画大全集 』を見に行ってきました。横須賀美術館の方が、「北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで」とある通りに、古典から現代までの妖怪画をズラリと取り揃えた展示がウリだとすれば、そごう美術館は幽霊と妖怪をほぼ均等に扱い、展示の内容も三展の中ではもっとも幽霊画が充実していました。妖怪もいいけど、幽霊画が観たいという方であれば迷わずコレを選ぶのが吉でしょう。
横須賀美術館は大人も子供も揃って愉しめる展示に徹し、三井記念美術館の方は都会のド真ん中という立地と格式ある美術館の様式もあってか、やや大人の趣向に振ったものだったのに比較すると、そごう美術館の展示のターゲットはズバリ子供。
それぞれの展示にはイカした惹句がつけられてい、画によってはさらにその下へふりがなも振ってなかなかユーモア溢れる子供向けの説明文が添えられているという徹底ぶりで、さらっと惹句のいくつかを引用すると、ご存じ国芳の「相馬の古内裏」には『巨大ガイカツじゃあ~!』、「平清盛怪異を見る図」には「ワシもモウロクしたのかな……」、幽霊画に添えられている惹句では「墓場の幽霊図」には「西洋ならゾンビかしら」、そのほかにも「あーらひさしぶり、覚えてる?」「ギャァッ! 大きすぎるっ!」「グルルルルッ!」「移りゆく季節 移りゆく幽霊」「にらめっこでは負けないよ」「私の決めポース」「ひょっこりと、こんばんは」「化粧のノリが悪い えっ何だって?」、そのほか「妖怪画の世界」では「おまえたち、ゲームの邪魔するな」「みなさん、節電しましょう」「ボク、子供の夜泣き治します」「この男、鬼より凶暴につき」「オレ、生きてる? 死んでる?」「安珍さまぁーっ!殺すぅーっ!」「ふぅ……妖怪って疲れるんだぜ」と惹句だけの引用では何が何だかですが、解説文を読めば納得。横須賀美術館の説明も秀逸でしたが、こちらはユーモアも交えてとにかく妖怪幽霊を愉しんでもらおうという心意気が素晴らしい。
惹句の中でもっとも好みなのは、古川観方の「朝露・夕霧」の二作を横に並べた合わせ技に添えられた「化粧のノリが悪い えっ何だって?」。昭和二十三年の作品ですが、解説にもある通りまさに作者の「幽霊画研究が集大成された作品」であり、繊細な筆遣いの中にほの見える美しさと醜悪さが幽霊画の中でも際だっていました。
応挙の系譜に連なる正統・肉筆幽霊画のほかにも「歌舞伎の幽霊画」と題して、版画の展示も圧巻。ただ、絵の大きさと迫力から個人的には肉筆幽霊画の展示に圧倒されてしまい、このあとに続く歌舞伎の幽霊画はざっと見るだけにして、「百鬼夜行と妖怪図巻」も、横須賀、三井で同じようなものを何度も目を通しているので、このあたりも軽くスルー。ただ若冲の「付喪神図」はじっくり鑑賞しました。まさに現代のゆるキャラにも通じる可愛らしさとユーモアある画につけられた惹句は「お行儀よいし、ペットにしたい」。納得、であります。
図録のデザインも何だか昭和の特撮モノのようなイメージで、子供だったら絶対に愉しめるような展示内容といい、三展の中で一番のオススメは、と訊かれればこのそごう美術館の「幽霊・妖怪画大全集」でしょうか。ちなみにこの展示だけ水木しげるの画がありませんが、「幽霊・妖怪画大全集」の会場の前に水木しげるの版画展がひっそりと開催されているのでこちらもお見逃しなく。自分が観たときには結構売約済みのラベルが貼られたものもありましたが、他二展と重複した画もあったので、大きさなど迫力には欠けますが版画でもオーケーということであれば、やはり一番お得だと思います。