傑作。そもそも恒川小説にハズレなし、あとは好みの問題で、――ということになるかと思うのですが、今回はファンタジー小説の作法によって構築された前作『スタープレイヤー』とはその構成からして異なり、まさに恒川ワールドらしい「語り」の技巧が駆使された逸品で堪能しました。
物語は、「死者の町」へと何者かによって召喚された人物たちのパート「サージイッキクロニクル」と、ゲス野郎にホの字だった女の子を殺されてしまったごくごくフツーのボーイが、スタープレイヤーとなって様々な出来事に遭遇するパートとに大きく分かれているのですが、当然ながらこの結構にもしっかりと納得のいく仕掛けが施されています。前作『スタープレイヤー』でスタープレイヤーとなったヒロインもごくごくありきたりの、大した特技もない、また自ら超常者として覚醒するわけでもないフツーの女性でしたが、その点は本作も同じ。ボードによって魔法を与えられて最初は埒もない願いを実現し、そのあとにシッカリと願うことは読者にも当然予想されることではあるのですが、この魔法世界にやってくる前からの願いが実現してウキウキで暮らしているうちに、だんだんと不満が出てくるという展開もまた期待通り。
一方、「サージイッキクロニクル」のパートでは、彼らが召喚された町の謎を住人たちが解き明かしていくという展開で、一見するとこれがもう一つのパートとどう繋がっていくのかは見えてきません。後半へと進むにつれて、二つのパートに共通する名前の人物が登場したことから、その連関がほの見えてくるのですが、この人物の鬼畜ぶりと、その性格ゆえに負わされた業の深さが、まさに恒川ワールドの真髄を行くもので素晴らしいの一言。理不尽ともいえる突然の災難によってまったく罪のないものがヒドい目に遭うという、冒頭で描かれていた逸話の帰結点をここで読者は目の当たりにし、平々凡々だと感じていた本作の主人公たるスタープレイヤーの心の闇を知るにいたるという展開にはゾクゾクしてしまいました。
最後に二つのパートが虚実を超えるような仕掛けによって繋がりを見せるのですが、これこそはまさに「語り」を意識した恒川小説のもう一つの完成形といえるのではないでしょうか。読み慣れた本格ミステリーではなく、この風格の物語でこれをやってくれるとは、――という驚きともに、恒川小説の、決してひとつの場所に留まることなく進化し続ける作者の意気込みに感嘆した次第です。
前作と本作の違いといえば、こうした「語り」の技巧を駆使した結構のほか、スタープレイヤーが自らの作り出した”世界”とどう向き合うか、というその決断に大きな差をつけているところに注目でしょうか。前作のヒロインはこの物語世界の続きを予感させる終わり方でシメてくれましたが、本作で主人公が願ったものとその実現はなんとももの哀しい。しかし小説としての物語はここで終わることなく、エピローグによって物語世界の続きが描かれる構成も心憎い。続編が書かれることは確実でしょうが、とにかく次なるスタープレイヤーがどんな物語と魔法を魅せてくれるのか楽しみです。
前作のファンタジー小説めいた作風にちょっとひいてしまったファンも没問題、登場人物たちの心理や因業は、昔ながらの恒川ワールドにして、さらには物語の構成にも大きな工夫を凝らして「語り」の技巧を存分に堪能できる本作。未だ前作『スタープレイヤー』を未読の方であれば、まずはコレを、そしてすでにそちらは読まれたファンの方であれば必読の一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。
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