LOST 失覚探偵 (中) / 周木 律

真ン中ゆえ、上巻と同様に二つの事件を配して大きな進展もなく淡々と終わった感じでしょうか。最後の事件の真犯人と目される探偵の宿敵に操られていた人物がさらっと登場したりして、いよいよ探偵vs犯人の最終対決へ刻々と近づいている予感はするものの、それでもまだまだといった感じで、これを中だるみととらえるか、後半の盛り上がりにおける嵐の前の静けさと受け止めるかで、本巻の評価は変わるかもしれません。とりあえず最後が気になるので自分は下巻にも手を出す予定です(というか、もうすでに購入済)。

物語は、なンかに潰されて死んだとしか思えない屍体に、腹ン中で大爆発を起こしたとしか見えない奇妙な屍体のツーセット。いずれも奇々怪々な屍体の様態を提示しながら、その実、戦後間もない当時でも十分に調達可能なブツを用いたトリックがキモであるところは期待通りで、分量的には潰された屍体の逸話がほとんどのボリュームを占めており、こちらはなかなか奇天烈な仕掛けで魅せてくれました。

個人的にはこのブツを用いたトリックそのものよりも、このブツを使っていたと確信した探偵が、関係者達のさりげない言動から真犯人を明らかにしていく推理の展開に惹かれました。人間の「感覚」に依拠したひとつの証言は確かに実生活でも感じ得るもので、なるほど、そこから犯人をたぐり寄せていくか、と感心至極。実際、屍体を潰すために使われたブツはそこまで大袈裟にやるもンかねえ、と思いつつも、そこまでして屍体を装飾したのが実行犯ではなく、相当の美意識を持った探偵の宿敵と考えれば合点がいくし、奇々怪々な屍体に大袈裟なトリックを合わせたものとして眺めれば、上巻で語られた二つの事件よりも完成度は高いと感じました。

ちょっと気になったのが、腹部爆発でご臨終となった餓鬼屍体の謎を解き明かす際に、探偵が「収斂」に陥っていないように見えたものの、後日、やっぱり収斂してましたァという流れでありまして、この「ほんの一瞬の収斂」でも一つの感覚を失ってしまうという現象がいったいどのように説明されるのか、ここに何か意想外な真相が隠されているのか、――上巻の作者あとがきによればこのあたりも明かされるようなので期待したいと思います。

LOST 失覚探偵 (上) / 周木 律

LOST 失覚探偵 (下) / 周木 律

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