2019年から去年まではとあるブツの仕上げに忙しく、すっかり読書をサボっていたため読み逃していた一冊。作者のシリーズものでは「よろず建物因縁帳」の新作を心待ちしていて、こちらの方はどちらかと言うと、まァ、気が向いたら……という感じだったのですが、今作はかなりアタリ。夢が現実を浸蝕していくという一昔前のミステリ風味の趣向ながら、そこにハウダニットを経由して現実的な解を重ねてみせた構成など、本格ミステリに近い風格で堪能しました。
物語は、ネットで夢を売る、という謎の人物から夢を買った研究所バイトのヒロインが、注文品とは異なる悪夢を見る。やがてその夢売りから夢を買った野郎が殺人未遂で逮捕されると、刑事たちが研究所を訪ねてきたのをきっかけに、フロイトたちは謎の夢売りの正体を探ろうとするのだが、――という話。
当初はヤバめのクスリか何かで夢を見せるんじゃ、と疑っていたヒロインたちの受け取ったブツが存外に妙なものだったとはいえ、その夜にヒロインがブツ通りの悪夢を見たというからさァ大変。しかし夢探偵がその企みを操りと喝破して現実世界での夢売りの隠微な行動を探っていくのはかなり後半になってから。就職活動に勤しむヒロインがちらちらと自覚していた日常生活での違和感をささやかな伏線として夢売りの正体が明かされていくのですが、その正体が副題にもある「邪神」で、箇条書きで語られる過去の逸話がリアルの事件にあったものを想起させるところがチと怖い。
夢の探求を端緒としてそれが現実世界での事件と交わりを見せていく展開は前作『てるてる坊主殺人事件』にも似てい、よりミステリ風味を強くしてきた感じがします。それと同時に、夢に殺されたというフロイトの両親の過去についてもそれとなく語られていて、彼の背景が今後の事件にどう繋がっていくのか、今後の展開に期待でしょうか。同時に、怪異を忌避してどちらかというと科学的視点を重視して進んでいた物語のなか、最後の最期にふっと現れたあるものの姿はいったいどういう意味を持つのかが気になるところです(ちょっとこのあたりは『モレルの発明』を彷彿とさせてかなり好み)。
ちらっとアマゾンで調べてみたらすでに次作が出ているようで、今作の犯人たる「邪神」が再登場して物語に絡んでくる様子。積読本がたまりに溜まっているのですが、暇を見つけて読んでみたいと思います。