スタート! / 中山 七里

スタート!  / 中山 七里Reader™ Storeで何か適当なやつがないかなーと、かなり緩い感じで検索していて見つけた本作、あらすじ紹介の内容と惹かれていうより、電子書籍にしては紙本と比較しての良心的価格が魅力的で購入という、かなり不純な動機で購入したブツであることをまず告白しておきます。しかし結論からいってしまうと、結構愉しめました。

物語はというと、偏屈な映画監督のもとにかつての仲間たちが再び参集して新作を、と意気込むも、テレビ屋の軽薄なプロデューサーなどが絡んできたことで事態は暗転。果たして映画はキチンと仕上がるのか? ……という流れの中に、撮影中の事故やコロシを交えたミステリテイストを添えたのが本作で、偏屈な監督の才気と熱にアタった登場人物がつくりだす熱い、というか暑苦しい物語世界はいかにも定番の結構と展開をトレースしたものながら、登場人物のかなりの人達から「ちょッ……待てよ。これってリアル世界のあの人がモデルじゃねーの?」とゲスの勘ぐりをしてしまうような毒が本作の見所のひとつ。

撮影現場で事故を装った未遂事件が発生し、それがコロシへと発展していくわけですが、『閉ざされた世界の中では非常識が常識になる』というロジックから犯人側の異様な動機を仄めかしながらも、登場人物の配置にベタな趣向を凝らしてこれまたベタな動機で真相をシメてしまう展開は、ミステリマニアからすればやや物足りなく感じるものの、よくできた映画のような展開と趣向が、逆に撮影現場と映画に携わる人間模様を描き出すという本作のテーマと見事な重なりを見せているところが素晴らしい。

しかしこうした映画との重なりでもっとも心憎いのは、本編が終わったあとの但し書きで、「光文社電子書籍」の名義で書かれたこの文章を巻末に配することによって、作中に言及されているあるものとリアル世界における表現の障壁を合致させ、この物語そのものをより映画らしく見せている企みは実をいうと本作一番の仕掛けといえます。

紆余曲折ありながらもすべてがハッピーエンドでしめくくられるベタに過ぎる展開や、予想通りの犯人像、さらには物語が終わったあとの巻末に添えられた但し書きなど、一冊の本としての結構のすべてが映画的なるものへと昇華させるための企みと考えれば、相当に凝った仕上がりの本作、ミステリ”小説”として読むよりは、映画的な、あまりに映画的な物語として読むことができれば、かなり愉しめるのではないでしょうか。