悪霊の山 / 草野 唯雄

悪霊の山 / 草野 唯雄実は最近、ブックオフで草野ミステリの文庫が100円で大量放出されていて(既読ながらあの『クルーザー殺人事件』も)、ゴッソリ大人買いしてしまったのでそちらを早く読みたいのですが、とりあえず今回は電子書籍の方を先に片付けておきます。

タイトルからして、草野ミステリを知る方であれば、あの怪作『死霊鉱山』をイメージしてしまう本作、まあ、その予想はほぼ的中で、あらすじはというと要するにヤリたい男女が猛吹雪の中、山ン中でバッタバッタと殺されていき、……という話。もっとも本作の場合、前半に悪霊の曰くが語られていくゆえ、出だしからフルスロットルというわけにはいきません。この構成を知らなかったため、冒頭いきなり不可解な事件が、――というツカミのわりにはあっさりと犯人が割れてしまって何だかなァなんてため息をついてしまったのですが、この事件の真犯人とでもいうべき輩が要するに死霊の餌食となるわけです。

大火傷で醜い姿となったボーイに、件の事件の目撃者であった巫女娘が事件の真相をたどっていく、――というお約束の展開と思って読み進めていると、真犯人も含めた村のワルどもが何と巫女娘を拉致した挙げ句輪姦行為に及ぶという、昭和ギャングの筋運びにもしっかりとエロを添えているところは草野ミステリの醍醐味で、巫女服姿のままワルどもに拉致され、田舎っぺの言葉で許しを請う娘ッ子のシーンをざっと引用すると、

男三人が襲いかかった。汗くさい手拭いでさるぐつわをかけられると、あっという間に緋の袴と白い着物が脱がされ、下着もはがされてパンティ一枚になった。そのパンティも容赦なくひき下げられ、むしりとられた。
高校生とはいえ、体はもう立派な女だ。乳房も形よく盛り上り、腰にもまるく脂肪がついている。繁みだけはまだ薄かったが、そのほかはむしろグラマーといってもいいくらいだ。
リヤシートに押さえつけられたその白い体を見ただけで、三匹の牡はもう鼻先が荒くなっている。
六本の腕が、われ勝ちに乳房をつかんで押しもみ、のたうち回る両股をこじあける。
「いやっ! いやじゃっ!」

しかもこうしてワルどもにマワされたあとは、フラリと道路に飛び出してきた自転車をよけようとした車の中で、恋人同様火だるまとなってその後病院でご臨終、――という鬼畜すぎる結末で、悪霊の曰くの物語は一段落。要するに、後半の雪山での人死にはこれすべて女の悪霊の仕業ではないかという誤導を添えているわけですが、ここへさらに巫女娘とホの字の関係にあったミイラ男が病院を脱走し、行方不明になるにいたって、悪霊とミイラのコンボという怪奇趣味で後半の展開を牽引していく趣向が素晴らしい。

もちろん警察も二つの事件については怪しいと感じていて、いろいろと捜査を進めるものの、何しろ巫女娘の親父も含めて、村の実力者に首根っこを摑まれているため真相は闇の中、そうこうしているうちにワルどもが勝手に雪山に登り、「ステレオラジオカセット。カメラ。それに携帯用のオセロゲーム」を持参した連中は昔語りでも曰くのある洞窟に赴くやその中の一人が「どうだ、これだけ揃ったら、ここでパーテーでもやれるだろ」と提案。ヤリたい盛りのワル男とアバズレが揃えば、”パーテー”が”乱交パーテー”となるのは必然で、カンテラを消した洞窟の中でお互いの体をまさぐりながら相手を見つけてのプレイが始まります。

で、これまたスプラッターもんの定番のごとく、そのうちの一人の女が乱交パーテーの最中に忽然と姿を消してしまい、そのあとは首チョンパも含めた凄惨な死体がゴロリゴロリと現れるという展開は完全に予想通り。

機械がグリグリと動いて首チョンパといった見せ方や、女の眉間に金属物がグサリと突き刺さってギェーッ、なんていうシーンは完全にZ級ホラーの趣向ながら、一人また一人と惨死していくなか、暗く狭い洞窟の中を這い進む男の心理描写など、恐怖小説としての見せ方もしっかりと用意されているあたりが秀逸です。ミステリとして見れば、犯人は大方の予想通りながら、脱走したミイラ男の行方と、予想通りの真犯人を交錯させた事件の構図や、大方のミステリ読みが予想できるアリバイトリックの気づきに、ある自然現象を絡めたところなど、定番の中にも草野ミステリらしい細やかな技巧が光ります。

後半には、あの城たけしの歴史的怪作『呪われた巨人ファン』のように悪霊退散の呪文が無理筋に投入され、死体がガターッと棺桶の中から飛び出したりといったひばりテイストが炸裂。さらには『死霊鉱山』にもあった名文『脳細胞のコンピュータの配列が完全に崩壊された』を彷彿とさせる『正常な機能をつかさどる脳のコンピュータが、ガラガラと音をたててくずれた』という文章によって、呪怨完了。

『死霊鉱山』ではここでまさに脱糞ものの衝撃的なラスト・シーンが用意されているのですが、本作の最後の一文は「では皆さん、いいお年を」。かなり恐ろしいショッカーなシーンが連続するわりには、要所要所に『それは布団のそばにピョコンとたっていた**(一応ネタバレ回避のため伏字)の生首』といった惚けたオノマトペが添えられていたり、あるいは最後の真犯人の手記が「つまり……というわけ」というようなやたらとくだけた文体であったりするところなど、物語全体に飄々とした雰囲気が感じられるのもまた本作の妙味といえるでしょう。

ミステリとしての趣向には黄金時代からの定番を大量投入しつつ、ホラー的な見せ方と映像美で恐怖心を煽りまくる風格は、恐怖小説として読んだ方が愉しめるカモしれません。『死霊鉱山』に比較すればダメミス度は低いものの、後半のホラー的展開はかなり愉しめるし、スプラッターのシーンにも映像美が感じられます。『死霊鉱山』的な草野作品を所望の方には文句なくオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。