ぼくらの近代建築デラックス! / 万城目学 門井慶喜

ぼくらの近代建築デラックス! /  万城目 学 門井 慶喜 今日の夕方にお台場に行くので、ミステリ小説ではないものの、ちょっとした予習も兼ねて本作を取り上げてみたいと思います。

内容はというと、博覧強記の門井氏にボケの巧みな万城目氏の二人が、大阪、京都、神戸、横浜、東京の五都市の近代建築巡りするというもの。カラー写真も豊富で、建物の外観のほか、築地本願寺の妖怪レリーフ(意味不明、でも読めば判ります)などのディテールなど、二人の語りの中に登場するものも添えられているのが嬉しい。

冒頭を飾る大阪散歩は、最初だけあって結構フツーに建築巡りをしているという雰囲気で、有栖川氏の唐突な登場など意表を突くハプニングなどを添えつつも、本作の『物語』の主要登場人物の一人である渡辺節の綿業会館のルポは最後におあずけ。ネタ的に美味しそうな建物が出てくるのは京都編からで、龍谷大学本館、九条浄水場ポンプ室など物語性のある演し物が続きます。龍谷大学本館をラッフルズホテルみたいだという感想から、擬洋風建築と西本願寺との関連へと流れていく門井氏の説明も見事で、ここはかなり楽しめました。

ユーモアという点では、やはり異人館を大々的に取り上げた神戸編が面白く、うろこの家に関する万城目氏の貧乏エピソードから近代建築への保存へと話が進むのですが、割高な拝観料について門井氏の弁護から話がまとまったかと思いきや、横浜編では再びその話が蒸し返される展開がイイ。また神戸編では、御影公会堂を「ストーリー性が高い」として、この建物を『語って』みせる門井氏の技芸にも注目でしょう。

本作はときに近代建築に関わってきた建築家をはじめとした人物にも焦点が当てられていくのですが、その中でもやはりひときわ輝かしい光芒を放つのが綿業会館の渡辺節。後半に収録されたリベンジ編ともいえる綿業会館のパートも含めて、彼のある関係者から手紙をいただいたという逸話を万城目氏が語ってみせるのですが、掲載されている写真でも判る通りの相当にモダンなイケメンで、本作をきっかけに、彼や辰野金吾から近代建築に関わったひとびとの人脈を辿っていくのも楽しそうです。

また建築家たちの様々な逸話も語られているのですが、建築家としての風格のみならず、人間くさいエピソードも満載で、中では神戸編の旧和田岬灯台のリチャード・レンリー・ブラントンのいいかげんでありつつもしたたかささの垣間見えるキャラが印象に残りました。

建築家の中で個人的にもっとも惹かれたのは、やはりといいうか(苦笑)、一橋大学と築地本願寺の伊東忠太で、本作の中では妖怪大好き建築家として取り上げられています。築地本願寺は中を覗いてみたことがないので、機会があったら是非とも様々な妖怪レリーフをこの目で確かめてみたいと思った次第。

これは是非とも続編を期待ところなのですが、とはいえ近代建築という点で、大阪、京都、神戸、横浜、東京のほかにどこがあるのかが気になるところで、本作にも取り上げられていない地方都市の知られざる傑作を見つけてくるのか、それともこの五都市をさらに掘り下げてみせるのか、今夜、そのあたりの話題が出たときには、追記として下に記しておきたいと思います。

[追記]
なお、この次のエントリに、この日の夜のイベント『ぼくらの近代建築デラックス!』出版記念イベント ぼくらの近代建築デラックス・ナイト!』を感想をあげておきました。