『ぼくらの近代建築デラックス!』出版記念イベント ぼくらの近代建築デラックス・ナイト!@東京カルチャーカルチャー

さて、昨日のエントリで取り上げた『ぼくらの近代建築デラックス!』の出版記念イベントである『ぼくらの近代建築デラックス・ナイト!』を観に行ってきたので、今日は簡単ながらその感想をまとめておきます。

単行本には万城目氏と門井氏の写真もシッカリ掲載されているのですが、直に見るのはもちろん初めて。門井氏はイメージ通りというか、物静かで落ち着いた雰囲気であった一方、万城目氏が会社の同僚にクリソツで吃驚したのは内緒です(爆)。

RICOH GXR + MOUNT A12 + YASHICA ML 24mm F2.8
RICOH GXR + MOUNT A12 + YASHICA ML 24mm F2.8

イベント会場である東京カルチャーカルチャーは、お台場はトヨタメガウェブの隣にあります。ここは食べたり飲んだりしながらトークショーを愉しむという趣向で、会場は横に長く、ステージの真向かいはすでにほぼ満席状態だったので、とりあえず入って左のカウンター席の前に座り、軽く揚げ物などをつまみながら待つことしばし(ちなみにこの写真の右側に後ろ姿で写っている男性は、『浜村渚の計算ノート』シリーズで知られる作家の青柳碧人氏)。

ステージ後方にはこの通りPCの画面を大映しできるスクリーンが据えつけられてい、ここに映し出された写真を見ながらトークをしていくという進行でした。今回のイベント参加者のみに配布された小冊子があって、そこにはこの夜の話のネタとなる近代建築が、編集者であり司会役の石井氏の撮影した写真とともに紹介されています。一応リストしておくと、学士会館、一誠堂書店、旧岩崎邸、三井本館、有楽町ガード下の五つ。

後半に単行本未収録の『建築散歩こぼれ話』が添えられていて、実本とともに楽しむことができます。また後半には「近代建築とっておき撮影術」と題して、単行本の撮影を担当した文藝春秋写真部のカメラマン深野未希氏の撮影技法も収録。ちなみに深野氏はちょうど自分の一つ前の列に座っていたのですが、カメラはニコンの弩級一眼レフ(D4?)でした。

圧巻は、門井氏作成の「ぼくらの近代建築クロニクル!」なる近代建築年表で、これは今後の近代建築巡りにはかなり使えそうなアイテム。単行本が、大阪や神戸といった立地からはじまり、渡辺節や辰野金吾をはじめとする建築家たちの人脈によって連関を広げていく横軸だとすると、この近代建築年表は、それらを時系列に並べて俯瞰していく縦軸ということができます。

RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7
RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7

写真の左から石井、門井、万城目氏で、門井氏が自分の中のイメージを覆すド派手な色のセーター姿で登場(爆)。話は、冊子に収録された順番で進められていきました。最初の学士会館はけっこうな時間をかけて紹介されたひとつで、新島襄などのトレンドも巧みに取り入れたトークで盛り上げていきます。この中で興味深かったのは、門井氏が作家ならではの気づきとして、学士会館の名前の表記が建物のあちこちで異なると指摘ことでした。まあ、これについての答えはないんですが(苦笑)、証拠写真を後方のスクリーンに映し出し、野球ネタや大学ネタで万城目氏の軽いボケも交えつつ、学士会館の項は終了。

RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7
RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7

一誠堂書店、旧岩崎邸と話は続くのですが、冊子の見開きにある『撮れたてほやほやの写真』の中では、旧岩崎邸の庭で撮影されたものが良かったです。芝生におかれた白テーブルに椅子という、記念撮影としてはできすぎな場所に両氏を座らせ、その奥左手に「17世紀の英国ジャコビアン様式の装飾が随所に凝らされているほか、イギリス・ルネサンス様式、イスラム風モチーフ、コロニアル様式などが採り入れられている」旧岩崎邸を配したところまではいかにもありきたりなのですが、右手に前ボケでこの季節ならではの桜を添えた構図がイイ。おそらくこの写真を撮影したのは、深野未希氏だと思うのですが、優しい女性らしさの感じられる一枚でした。

RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7
RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7

旧岩崎邸は上にも引用した通りさまざまな様式が採り入れられているわけですが、その工法がちょっと驚きのものとなっていて、この写真は、それを確認しているところ。

続く三井本館では、門井氏と万城目氏がそれぞれの銀行口座をつくったときの逸話を披露。専業作家が職業欄にどう書くのかというのは、リーマンであれば興味が湧くところですが、万城目氏によると、三井住友銀行からは、「職業欄には専業主婦を、企業欄には無職」と書くように言われたとのこと(爆)。単行本でも、さりげなく伏線を凝らして次の紹介に繋げていく構成が印象的でしたが、この夜のトークでも、この三井本館のところで、門井氏が、コーニスという言葉を挙げて、次の有楽町ガード下にある或るものを取り上げていたところが面白かったです。

RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7
RICOH GXR + MOUNT A12 + CONTAX Planar T* 50mm F1.7

このコーニスのほか、有楽町駅から折り返すかたちで、東京駅、新橋駅とではガード下の装飾やつくりが異なることや、落剥したメダリオンの写真など、ぶら歩きしているだけでは絶対に気がつかないディテールについての逸話も添えて、詳しい解説を聞くことができました。

六時半から八時半ころまでのおおよそ二時間、かなり濃密な話を堪能できたイベントで満足至極です。自分は写真や現代美術関連のこうしたイベントには結構足を運んでいるのですが、文芸界隈のものは今回がはじめて。この東京カルチャーカルチャーのサイトを見ると、以前には京極夏彦氏を交えた会談イベントなども行われていたらしく、今後はマメにチェックしていきたいと思います。