「第二回島田荘司推理小説賞レポート in 台北 (3)」の続きです。今日は台湾大学での講演の際の質疑応答の残りとともに、誠品書店でのトーク・ショーの模様をお伝えする予定だったのですが、休日出勤でチとクタクタなので、台湾大学での残りの質問とその答えだけを簡単にまとめておきたいと思います。
で、最後の質問は若い女の子で、「私が最初に読んだ島田先生の本は御手洗シリーズだったんですが、そのとき先生の本を手に取った理由というのは、御手洗という彼の名字がちょっと変わっていて面白いな、と思ったからなんです。この御手洗という名前をつけたのにはどんな理由があるんでしょうか。作家には何かこだわり、癖のようなものがあると聞いています。先生にはそういうものがありますか」というもの。それに対する御大の答えは以下の通り。
まず御手洗に関してはですね、これはこういうことだったと思います。もうずいぶん前なんですけどね、名前をつけたのはね、私はですね、子供時代に島田荘司――これ、本名なんですね、それでこの名前に劣等感を持っていました。小学校のときに掃除当番というとすぐ島田だ、と言われたわけです。そしてその掃除の仕事で一番誰もがいやがるのが便所掃除であったわけなんですね。ですから便所掃除の担当っていうと、いつもみんなが私の方を指さしたがりました。あまり面白いジョークとも思えなかったが、彼らにしてみれば面白かったんでしょうね。
ですから子供のころ、私はあだ名としてね、幸い長くは続きませんでしたが、掃除大臣しか、便所掃除とか、そのようなあだ名をつけられがちでした。便所掃除を漢字にしたら御手洗潔になるな、そういうふうに考えたわけです。
二つのめの質問、癖ですよね、これはなくて七癖――これはいろいろ聞きます。作家の方たちに関してはよく聞きます。書く前に鉛筆を一生懸命削って、それを小一時間削りつづけてびんびんに尖らせて並べないと書けないとかですね。あるいはケシゴムの黒ずみをですね、綺麗に掃除をしてからでないと書けない、ピアノを一通り弾かないと書けないとか、いろいろありますね。
しかしキーボードの時代になってきてから、こういうなくて七癖っていうのは滅んでいったんじゃないでしょうか。PCのスイッチを入れたら、割合そういうことをしなくても書きやすいように思います。私に関してはですね、そういう癖がまったくないのが癖といってもいいようなところがあって、もういつでも、どこでも書けます。
自動車教習所で順番を待っているときに広告のチラシの裏に書いたこともありますし、パリ・ダカール・ラリーというものに参加したときも、インクがなくなったものですから、もう拾ってきた紙切れに書いていたら黒いインクもなくなっちゃった。砂漠っていうのは乾くものですから、緑色や赤のペンで書いたりして、みんなが吃驚したことがありました。で、島田さんって緑色のインクで書くんですか、そういう癖があるんですかと言われました。とにかく緑色しかなかったんです。
特に最近は忙しくなってきましたし、こういうふうに旅をすることも多くなったし、人前でお話をさせられたり、それから乗り物に乗ったりっていうことが多くなりました。そういうとき飛行機の中とか乗り物の中とか、それから編集者に色々相談されたりミーティングしたりすることがあります。こういうときは書けないですね。だから空いた時間はとにかく書きます。そうしないと本当にもう書く時間がなくなってしまいましたから。ですからますますそういう癖はなくなってきたと思うんですけどね。