この前に開催されていた『「魔性の女」挿絵展』を見にいったおりに見つけた本展。もう自分のようなボンクラがグタグタ述べるまでもなく『ゼッタイ、見にいかなきゃダメッ!』の一言で終わりにしたいくらいの素晴らしい内容で、堪能しました。
まず一階の展示室に入ると、皆川博子女史から贈られた大きな花がデーンと飾られていて、気合いが入ります。指示通りに左から廻ると、まずは『家畜人ヤプー』の挿画がずらりずらりと並んでいて、正直これだけでもうお腹イッパイ(爆)。
ラフなスケッチふうのものから始まり、ところどころに都市出版社版の『家畜人ヤプー』などが飾られているといったふうに、本展では、装幀装画であるからこそ、”作品”としての原画と”商品”となった実際の本とを比較できるような趣向になっています。このあたりを展覧会の説明文から引用しておくと、
装幀装画は、大量に印刷される絵であり、印刷されてこそ完成形といえるものです。しかし残念ながら、丁寧に描きこまれた筆致や繊細な彩色が、画家の表現したい意図そのままに印刷物に再現されることはありません。それがわかっていても、村上は自分の技法にこだわりを持って精緻かつ流麗な線描画を描き続け、結果、多くの著者と幾万の読者に愛され続けました。
印刷物という”商品”としてしか目に触れる機会のなかった読者としては、はじめて眼にする原画ですが、ますその違いで個人的に驚いたのが、その鮮やか――というか、鮮やかに過ぎる色彩でしょうか。自分にとって村上芳正は『家畜人ヤプー』よりは、たとえば講談社文庫の連城三紀彦や赤江瀑の表紙画などに見られた、淡くも艶やかな色彩の印象が強かったため、『家畜人ヤプー』の原画に見られた――蛍光ペンのピンクのごときド派手な色使いにはかなり吃驚してしまいました。また『家畜人ヤプー』では、人物像など西欧的なモチーフのイメージが強い村上作品のなかで、「これ、どう見ても河童だよね(爆)?」みたいな異形のものが描かれていたりといったふうに、今までの固定的な印象を覆す作品を眼にすることができたのも大きな収穫でありました。
村上芳正といえば、曼荼羅か、はたまたアラベスクかと見まがう緻密画も大きな魅力のひとつでしょう。今回の展示では吉田知子と『立原正秋の本』の原画が圧巻。これだけでもかなり長い間ジーッと凝視していたのですが、奇想のモチーフをのびのびとした筆致で描いてみせた『家畜人ヤプー』シリーズを一巡するかたちで展示する一方、こうした細密画についてはその細部にいたるまでを近くからじっくりと眺めることができるよう、中央に配置したガラスケースにおさめた展示方法も素晴らしいと感じました(ちなみに『幻影城』をはじめとしたミステリ関連も、『立原正秋の本』の原画と同じく中央のガラスケースにおさめられていました。確かこちらは二階の展示だったかと――弥生美術館はメモ取りも×なので、どうもこのあたりの記憶が曖昧だったり)。
原画と並べるかたちで展示されている”商品”としての本も保存状態もよく、『家畜人ヤプー』に関しては、村上芳正の枠を飛び越えて徹底した紹介がなされていたところも興味深い。都市出版社版はもちろん、太田出版や、さらには石森章太郎、江川達也の漫画までもが展示されているというこだわりようで、展示室を入って左は、村上編とでもいうべき原画を一同に並べ、右側には『家畜人ヤプー』の全貌を紹介するかのように漫画版までも含めた紹介を行っているため、今回の展覧会は、村上ファンのみならず、『家畜人ヤプー』のマニアも一見の価値はアリでしょう。オススメです。
期間は9月29日まで。まだまだ余裕があるので、もしかしたらもう一度、国書刊行会から今月刊行予定の『薔薇の鉄索 村上芳正画集』を手に入れてから再度、足を運んでみようと思っています。