第三回島田荘司推理小説賞入選作。第一回、第二回の入選作品に比較するとかなりの異色作という印象でした。理由については後述します。
物語はというと、夜ごと不気味な悪夢にうなされている監察医の主人公が管内で発生した連続殺人事件の捜査に関わるうち、謎めいた霊感女と出逢い、幽霊の存在と悪夢の真相を知ることになり、――という話。
猟奇殺人事件と幽霊のコンボによって進められる展開には怪奇小説めいた雰囲気が横溢しており、島田荘司推理小説賞の作品としてはかなり異色。とはいえ、主人公が廃屋で目撃した幽霊の存在については正体見たり枯れ尾花ながらしっかりとした科学的説明が添えられ、その枯れ尾花の由来が犯罪の動機と密接な関わりを見せてくる事件の構図によって、幻想ミステリからの鮮やかな反転を見せる構成は本格ミステリとしても秀逸です。
とはいえ、監察医という職業の主人公が死体愛好者ではないかと自身の奇癖を疑うサイコ風味や、カノジョとカーセックスに興じるだけでは飽き足らず、屍体を前に婦警さんとセックスをし、霊感女ともいいカンジになっていくというエロスまみれのノリはやはり清く正しく美しい本格ミステリというよりは、戸川昌子の幻想ミステリに近接した作風のように思えます。
連続殺人事件には現実的な解を明示しながら、霊感女の暗躍によって明快に思えた連続殺人事件の真相が不連続なものへと転化していくどんでん返しは、日本の作家でいえば三津田信三の刀城シリーズを彷彿とさせます。特に科学的鑑定が逆に論理による帰結を反転させ、そこから怪異としかいいようのない謎が立ち上がる構成は不気味で、もちろんそのあとに探偵役から怪異を否定した”最後の真相”が語られるとはいえ、それによって主人公の視点で描かれていた今までの物語のすべてが現実とも妄想ともつかない不確定なものへと落ちていく見せ方は多分にホラー的。
「本格ミステリは学術論文のように明快なものであるべき」という御大の考え方を受け入れるのであれば、真っ向から対立する作風に見えるものの、島田荘司推理小説賞の評価を離れて虚心坦懐に本作を読むのであれば、死とエロスを前面に押し出し、サイコと怪奇趣味を盛大に盛り込んだ作風は、かなり純度の高い幻想ミステリとして評価できるカモしれません。
第一回、第二回の入選作六編の作風をイメージして取りかかると大火傷をする可能性大という一編ながら、自分のように戸川昌子女王を崇拝し、怪奇とエロス溢れる幻想ミステリを所望の好事家であれば、かなりの掘り出し物といえるでしょう。くれぐれも取り扱い注意、ということで。