相模原市総合写真祭「フォトシティさがみはら」@相模原市民ギャラリー

相模原市総合写真祭「フォトシティさがみはら」@相模原市民ギャラリー今回で第13回目となる「フォトシティさがみはら2013」。市民でありながら写真展に足を運ぶのは今回は初めてとなります。というのも、第1回からの受賞者・受賞作でこれは、と響くものがなかったのがその理由だったりするわけですが、今回の受賞作はあの志賀理江子の「螺旋海岸」とあればこれはもう、見に行かないわけにはいきません。

プリントへの興味というよりは、そもそも写真集そのものが未見だったので、今回は純粋に初対面の作品と向き合うことになりました。で、感想ですが、凄まじい重力を放つ圧倒的な写真ばかりで堪能しました。公式ガイドブックにも引用されている作品解説に目を通してしまうと、畢竟、巷に溢れる震災写真のジャンルのひとつとして本作と対峙することを強いられてしまうわけですが、そうした強制を蹴散らすほどの凄みに溢れた作品ばかりです。

プリントはそれほどの大きさではないのですが、写真全体から放たれる霊気が半端なく、「波打ち際まで300メートル」や「宇宙人だった」という印象的なタイトルから、見る側が必然的に想起してしまう物語性を打ち砕いてしまうほどの幻想味を帯びた被写体の凄み、――まさに圧巻という言葉がふさわしい傑作でした。螺旋階段シリーズのやや上から被写体を俯瞰した作品に見られる幻想的な色使い、そして浮遊する霊気をおさめた「さようなら」や「ヤマツツジを食べながら帰った」など、幻想絵画にも近接したモチーフとタイトルの妙も素晴らしい。これは写真ファンならずとも市民であれば必見といえるのではないでしょうか(そもそもこの展示はタダ)。

新人奨励賞は、野村左紀子『NUDE/A ROOM/FLOWERS』と田代一倫『はまゆりの頃に』の二作で、個人的に惹かれたのは『NUDE/A ROOM/FLOWERS』の方。見終わったあと、伊藤俊治の選評で、この作品が「彼女のヌード写真を長くつとめた男性の死を、女性ヌード、室内、街路、花々などといった様々な光景が柔らかに包み込む、痛みと追悼の念の深く籠もった私的な写真シリーズ」であることを知ったのですが、本作が”私的”な作風であることはモノトーンを中心とした構成と、淡いフォーカスを中心に据えた構図から十分に感じられました。

しかしそうした”私的”なものを普遍的なものとしているのが、人影のない風景写真の一群からにおいたつ人の気配で、先入観なくこの作品に対峙したときにもっとも印象に残ったのがこうしたものでした。この気配が、写真家の「ヌード写真を長くつとめた男性」への思いなのか、それともそうした”私的”なものとはまったく異なるものなのかは不明。

田代一倫『はまゆりの頃に』は巷に溢れる震災写真ジャンルの典型ともいえる一作で、作者の作品解説に曰く「三陸、福島へ何度も撮影に通い、道で出会った方に声をかけ、撮影することをひたすら繰り返した」というもの。展示された写真の一枚一枚に作者の言葉が添えられてい、それぞれの写真を撮影したときの逸話が語られているのですが、こうした展示方法は賛否両論わかれるところではないでしょうか。

写真に添えられた逸話に目を通せば、そこに記された「物語」を前提として見ることを強制されることになるわけで、個人的にはあまり好きではないのですが、こうしたモチーフに挑んだ写真の価値というのは、相応の年月を経たあとに生じるものだと思うのですが、いかがでしょう。たとえば松本典子の『野兎の眼』で、松本氏は、「奥吉野の村の秋祭りで出会った14歳の少女を、10年かけて撮り続け」ている。これから長い年月をかけて同じ被写体を撮り続けるという写真家の覚悟が最初の写真に見られ、また実際に彼女がそれを成し遂げたからこそ、この写真は価値があるともいえる。果たして「はまゆりの頃に」の田代氏がこうした覚悟をこれから何年、何十年と持ち続け、それを実践していくことができるかどうか、――それによってこの作品の価値は積み重ねられていくのだと思います。というわけで、奨励賞を受賞したあとの田代氏の活躍に期待。

もうひとつ、この写真賞には「アマチュアの部 さがみはらアマチュア写真グランプリ」というのがあって、金賞、銀賞、銅賞、市民奨励賞から入選作の作品も展示されています。こうしたアマチュア写真コンテストには、コンテストならではの”芸風”というのがあって、受賞作のあらかたはそうした”芸風”を巧みに演じた作品ばかりで個人的にはあまり興味が湧かないものの、今回は入選作の中に面白いのものが二作ありました。高橋一郎(大阪府)の「夏の日」と、山口かほる(東京都)の「好奇心」がそれで、「夏の日」は広角レンズ特有の歪みとパースを行かしたハッキリ、クッキリの構図によって、ありきたりの日常風景が幻想的情景へと転化する瞬間をとらえたもの。「好奇心」はおそらく水族館が舞台と思われる一枚で、赤い帽子の人物が、硝子を隔てた”むこうがわ”の異形と邂逅する一瞬を撮ったもので、ちょっとウルトラQっぽい(爆)(意味不明。でも見れば判ります)。

会場もなかなかの広さで、繰り返しになりますが、これだけのボリュームの作品がタダで見られるというのが凄い。過去の写真展で「螺旋海岸」のプリントを見逃した方であれば、相模原まで足を運んでも見る価値は十分にアリだと思います。なお受賞作写真展は今月の28日迄。