オールドレンズ擬人化少女 / 澤村徹・シカタケンタ

オールドレンズ擬人化少女 / 澤村徹・シカタケンタ自分は別にオールドレンズマニアというわけでもないし、少女イラストに萌えることができるほど若くはないのですが、本冊子は『オールドレンズ擬人化少女』という興味深い企画を応援するためにとりあえず購入してみました。

内容はというと、すでにオールドレンズ擬人化少女のサイトで公開されている八つのコンテンツをそのまま紙におこしたもの、――と考えていただければよろしいかと。何しろサイト自体が非常によくできたものなので、これを紙にしても、……というのが実際のブツを見るまでの印象だったのですが、紙は紙でまた違った面白みが感じられます。

サイトでは、シカタケンタ氏のイラストを大きくあしらったデザインになっているため、澤村氏の文章はいうなればナレーションのような感覚で眺めていたのですが、この冊子では、右側にシカタ氏のイラストをあしらい、左側に澤村氏の文章とともに作例、レンズの来歴を並べる構成になっています。

個人的には本作、ムックの中でも、サイトとの差別化を図るべく、読み物に比重をおいた趣向と感じました。サイトでは薄いグレー地に濃い灰色のフォントで文章が綴られているため、自分のようなロートルはやや読むのが辛かったものが、こうして本となってしっかりと黒のフォントで書かれていると落ち着いて文章に眼を通すことができるのがイイ。

あらためてしみじみ佳いな、と思ったのはアンジェニュー25ミリF0.95の魅力について語った澤村氏の文章で、これはもうレンズの紹介というよりは、詩といってしまっていいかと(爆)。このレンズの持つどこか夢幻的な個性にドップリと浸かったものでしか判らないであろう魅力が詩人を彷彿とさせる文体で綴られています。

レンズそのものというわけではなく、イラストで良かったのは、ヘリオス40-2 85mm F1.5でしょうか。それぞれのイラストをよくよく見ると、少女たちの風貌はもちろん、その出で立ちから佇まいにいたるまで、レンズの個性を体現したこだわりぶりが感じられ、たとえばヘリオスでは、このレンズの鏡胴が持つ重厚なイメージが頭の帽子にしっかりと表現されています。そしてツァイスイエナではゼブラ柄の洋服という期待を裏切らないデザインで魅せてくれます。

――って今サイトを見てみたら、ヘリオスとロッコールはClosedになっていて見ることができませんでした。だとするとこの二つのイラストは本冊子にあたるしかないということになります。

ただ、イラストと文章を引き立てる組み版になっているため、そのかわりに作例がかなり小さくレイアウトされており、大きな写真が見たいということであれば、この冊子に眼を通したあと、再びサイトでそのレンズの味を堪能する、――という愉しみ方が吉でしょう(作成が大きく取りあげられているものもありますが、それでもせいぜい半ページくらい。以下参照)。

SONY α7 + CONTAX t* Makro-Planar 2.8/60 C
SONY α7 + CONTAX t* Makro-Planar 2.8/60 C

ちょっと薄いのがやや物足りないところではありますが、個人的にはサイトではもう見ることができないヘリオスたんのイラストを堪能できただけでもめっけもの(爆)。ヤシコンツァイスにタクマーと、オールドレンズを気取るにはどうしたってありふれたものしか持ち合わせていない自分には、本冊子で取り上げられているレンズたちはとうてい手の届かない存在ではありますが、蠱惑のオールドレンズが放つ魅力・魔力の片鱗を垣間見るには、こうしたアプローチも面白いのでないでしょうか。オススメです。