東京国立近代美術館で昨日まで開催されていたジョセフ・クーデルカ展を観てきたので簡単に感想をまとめておきたいと思います。実はコレ、三月くらいまでやっているものと勘違いしていたのに気がついたのが先週の木曜日あたり。これは大変だということで慌てて見に行ってきた次第。内容の方はもう、文句なしに素晴らしかったです。
クーデルカ展といえば、数年前に東京都写真美術館の『ジョセフ・クーデルカ プラハ1968』も観ていて、こちらはこのページにもある通り、プラハ事件の写真を大々的に取り上げた「フォト・ジャーナリズム」の側面が強く押し出されていたのとは対照的に、今回の展示はRetrospectiveとある通り、初期作品から最近の「カオス」にいたるまでのタップリ堪能できる構成でした。
初期作品では例のボンヤリとしたシルエットのモノクロ写真はもちろん、風景写真でもバッチリ構図が決まった作品をズラリと取りそろえた展示を前にして最初からかなりテンションがアップ(爆)。しかし今回の展示方法はかなり風変わりで、会場の中央に細かい仕切りを入れた構成になっているため、直線を辿って順番通りに作品を鑑賞するのに難儀しました。初期作品の「劇場」と「ジプシーズ」は長い直線にちょうど相対するようなかたちで展示されているため、まず入って左側の「劇場」を一通り観たあと、再び最初に戻って今度は右側の「ジプシーズ」を鑑賞、――というかんじで進めていったのですが、これ、皆さんはどうやって観ていったんでしょう? 「劇場」を観たあとここでUターンしないと「ジプシーズ」は後回しになってしまうと思うのですが……。
「ジプシーズ」は断片的にひとつひとつの作品はどこかで観たことがある記憶はあるものの、こうしてシリーズをまとめて一度に鑑賞することができたのは今回がはじめてで、ここでは「観る」ことに徹したクーデルカの”視点”を堪能できました。しかし今回の展示で圧倒的に良かったのは、やはり「エクザイルズ」でしょう。
ブレッソンを典型とする、もう”マグナム!”としかいいようがない決定的瞬間をとらえた完璧な構図で、「フランス・ブルターニュ 1971」の絵画的な人物と馬の配置に見られる静的な作品はもちろん、「フランス・オー=ド・セーヌ 1987」に見られる犬のポージングの無類の格好良さ、「イギリス、スコットランド 1977」のこちらに迫りくる鴎の一瞬をとらえた動的な作風と、動と静が交錯する展示は二度見、三度見してもまだ飽き足りないくらいの密度で、正直この「エクザイルズ」と「カオス」だけでも観に行った甲斐があったというものです。
「侵攻」については、上に述べた東京都写真美術館での展示で一度しっかりと観たものが並んでいたのでこのあたりは軽くやり過ごし、「カオス」へと進みました。これも素晴らしかったです。「侵攻」以上のどデカいプリントにまず度肝を抜かれてしまうわけですが、ここでは荒涼とした風景の圧倒的な存在感を全身で感じながら、ジプシーたちの猥雑さと高貴さが入り交じった「ジプシーズ」との対比しつつ、クーデルカの軌跡を思い返してみるのも一興かと、――といっても、もう展示は昨日は終わってしまっているわけですが(爆)。
最後に今回の図録ですが、これはちょっと残念な出来かと、……まず紙質がざらっとしたもので、確かにモノクロゆえ、こういう紙の方が粗いかんじは出せるのかもしれませんが、実際に眼にしたプリントはもう少し黒のトーンがはっきり出てきたような気がします。目録では暗部が完全につぶれてしまっているものが多く、暗部のトーンをじっくり堪能したい自分にはちょっと物足りないというか。もっともクーデルカの作品は総じてその完璧な構図を愛でるのが正統な鑑賞法かとも思えるので、これはこれでいいのかもしれません。