太陽の世界 1 聖双生児 / 半村良

一月にkindleストアで角川書店系列の本が70%セール!みたいな凄まじいことやっていたのをきっかけに、まとめて購入した本シリーズ。ガキの頃に新刊で出るたびに夢中で読みふけっていたものの、たしか最後の十八巻までは揃えていなかった記憶があったので、絶版本となっていた本作がこうして電子書籍として復活したのは嬉しい限り。現在は一冊460円で売られているのですが、自分が手に入れたときは確か130円以下でした。個人的にはReader™ Store推しですが、こういうことをやるからKindleストアは油断がならない。もっとも、Reader™ Storeは既報の通り北米から撤退するとのことですし、現在のソニーを動向を見るにつけ、日本でもいつ店を畳んでしまうか判らないので、Kindleもそれなりに馴れておく必要があるわけで――。

さて、本作ですが、確か八十巻近くの構想をもっていたとされる物語の始まりながら、壮大なプロローグというこけおどしもなく、非常にアッサリ風味であるところが半村節。「遠い昔、ムーと世張る大陸があった。ムーは海中に没した」という、各巻の冒頭に添えられる言葉が印象的で、すでに物語の始まりにして終わりが予告されています。

ラを信仰するアム族が移動を続けるなかで、彼らの運命を大きく変転させるモアイ族との出会いの描かれるのがこの一巻ながら、派手なドンパチやスペクタクルが大展開されたすえ運命的な邂逅があって、――みたいなハリウッド風味は皆無。極めて淡々と話が進んでいきます。アクションとスペクタクルはすべてに勝るという骨法のもとに制作されたここ最近の小説や映画群とは完全に一線を画する作風は、しかし壮大な大河物語を説き起こすきっかけとしては荘厳な趣さえ湛え、彼らアム族を将来導いていくであろう双生児の誕生を予感させる一文でしめくくられます。

この一巻や続く二巻に顕著なのは、上にも述べたアクションやスペクタクルを回避しながらも、物語をしっかりと盛り上げていくための素地作りの巧みさで、アム族のモアイとの出会いから、モアイにまつわる謎へと読者を誘い、その謎に対する興味から読者を物語の展開に惹きつけていくのみならず、彼らが信奉する神・ラの教義と、モアイとの出会いによって次第に変容していくアム族たちの思考を族長の内心に託して丁寧に描いていく筆致が何ともいい。

アム族たちは、生活の変容を受け入れるべきなのか、それともこれは神の御心に反することなのかと、何かが起こるたびに問いかけが行われるのですが、この思考訓練にも似た過程を描くことで、同時に彼らが信仰する神の本質と来たるべき運命を読者に少しづつ開示していく展開も素晴らしい。続く二巻からはドンパチほどではないにせよ、旅を続けるアム族たちに危機が迫りくるのですが、それでも淡々と進められていく風格は変わらず。一巻の長さもほどほどで、このペースだと全十八巻はあっという間に読了してしまいそうですが、折を見てここに感想をあげていきたいと思います。