開館記念企画展『手づくり本仕込みゲイジュツ』@はじまりの美術館

開館記念企画展『手づくり本仕込みゲイジュツ』@はじまりの美術館Facebookに準備室のページを立ち上げたときから六月の開館までずっとその進展を見守っていたはじまりの美術館。今回会津若松に一泊旅行へ行く機会があったので、帰りに猪苗代湖に立ち寄り、開館記念企画展『手づくり本仕込みゲイジュツ』を見てきたたので簡単ながら感想をまとめておきます。

チラシに『アール・ブリッュトを軸にあらゆる表現を発信する「はじまりの美術館」がはじまる!」とある通り、本美術館は、地方にあるごく普通の美術館とはやや異なる立ち位置からスタートしています。またその建物も、酒蔵として使われていたものを大胆に色直ししたもので、個性的という点では、ここ最近できた美術館の中でも群を抜いているのではないでしょうか。そして今回の開館記念企画展ですが、この建物の個性を十二分に活かした展示方法が凝らされており、堪能しました。

建物の中は撮影禁止なので、その様子を写真でお見せすることはできないのですが、まずしっかりとした扉を抜けると、平屋ながらかつては酒蔵として使われていた趣を感じさせる梁と、天井にほど近い位置から射しこむ斜光が心地よい。入って右側のエントランスホールには大きな木製のテーブルがデンと据えられてい、おそらくイベントなどではこのスペースが大活躍するのではないかと。そして件の展示が行われているのが左側にずっと広がる展示室とギャラリーで、エントランスから一番近いところにある展示室2には大きな玻璃窓を配して外からの展示の様子がチラ見できるようになっています。今回ここにはチラシの表紙にも使われている澤田真一の作品をメインに、外次崇の絵画が展示されていました。

この展示室2は上にも述べたとおり大ぶりな玻璃窓からの採光がキモで、原始的な芸術力を感じさせる澤田の展示は眩い光をふんだんに受けて輝いていました。そしてこれまたアール・ブリュットという枠組みを外してもピカソなど日本人にも馴染みがあるプリミティブな作風を彷彿とさせる(ちなみに自分が一番近いなと思ったのはルフィーノ・タマヨでした)外次崇の作品を同じ空間に並べてみせた趣向が心憎い。

そしてこの建物の中で個人的には一番心地よく感じらたのが隣にある展示室1で、ここには岩崎貴宏の「ブッシュ・シリーズ」が展示されていました。左右対称に配置された小窓から柔らかい光が射しこむ仄暗い空間は、展示室2とはまったく異なる雰囲気で、岩崎のユーモアと社会批判を凝らしたポップな作風とのミスマッチが何ともおかしい。

その奥にギャラリーと呼ばれる大きな空間があって、さらにその中心部には四辺を囲んで展示室3となる小さなスペースがあります。この展示室3を囲んでいるパーミッションの隙間から、ほんの少しだけ武田拓の巨大オブジェ「はし」が覗き見える、――展示室2を過ぎた位置からそちらを仰ぎ見たひとに「何だろう?」と興味を抱かせるこの演出が素晴らしい。展示室3には照屋勇賢の『自分にできることをする』や伊藤峰雄の作品などが展示されていたのですが、照屋のものは、岩崎の作風にも通じる細やかな技巧とセンスが光る作品でヨカッタです。

作品をひとわたり見終えたあと、エントランスホールに据えられた大テーブルで冷たいお茶をいただき、館長さんとホンの少しだけ話をすることができました(このあたりは小さな美術館ならではの愉しみ)。まだオープンしたてということもありますが、実際に訪れたひとのほとんどは県内からで、自分のように県外から来た人は一割ほど、とのこと。猪苗代湖といえば会津若松に近い観光地で、柳沼、五色沼などが点在しているあたり、関東圏の人間から見ると、富士五湖の山中湖、河口湖などを想起するわけですが、――実際このはじまりの美術館も、訪れる前は山中湖畔の森を入ったところにひっそりと佇む山中湖美術館みたいな感じをイメージしていたものの、まったく違いました(爆)。

自分は会津若松から車で一般道を通って行ったのですが、カーナビが目的地への到着を告げているにもかかわらず、建物を見つけることができません。その場所は山中湖美術館とは大きく異なり、食べ物屋や電気屋などが立ち並ぶごくごくありきたりの観光地にほど近い住宅街というか、――そんなカンジ。看板も見つからないものですから、もう一度車で引き返してよくよくその場所を確かめてみると、件の美術館の建物はかなり奥まったところにありました。美術館がここにあるという雰囲気はまったくなく、また看板も非常に見にくいところに立てかけてあるため、初めてここを訪れるひとが一発で探し当てるのは至難の業。ということで、看板の写真と道路から美術館の建物を撮影した写真を添付しておきます。

SIGMA DP1 Merrill
SIGMA DP1 Merrill (ISO200, f6.3)
SIGMA DP2 Merrill (ISO200, f5.6)
SIGMA DP2 Merrill (ISO200, f5.6)
SIGMA DP2 Merrill (ISO 200, f5.6)
SIGMA DP2 Merrill (ISO 200,f5.6)

はい、看板はこんなカンジ、――って、「こりゃあ、蕎麦屋の看板だろ」と思われた方、正解です(爆)。自分もこの大きな看板と風にはためく”おろしそば”の幟に惑わされて、その向こうにある美術館の看板を見逃してしまったクチでして……。このまま舗装されていない野っ原に車を突っ込めば、美術館の建物が見えてくるはずで、駐車場らしい雰囲気はありませんが、建物の前に適当に停めてしまえばいいのではないかと。

会津若松からは車で一時間もかからないところなので、関東圏から会津若松に遊びに行くときには、猪苗代湖を眺めるついでに立ち寄ってみるのも一興でしょう。自分もまた向こうへ旅行に行く機会があれば再訪してみたいと思います。