銀翼のイカロス / 池井戸 潤

銀翼のイカロス /  池井戸 潤ドラマの方は見ていなかったのですが、『オレたち花のバブル組』にはじまり、『オレたちバブル入行組』、『ロスジェネの逆襲』とひとまず読了しているゆえ、今回の新作もさっそく手に入れて読んでみた次第です。

『ロスジェネ』ではホリエモンっぽい輩や他の人たちが登場して、それとなーく現実世界の照応を意識していたのと同様、今回も「民主党政権下でのJALの再建」というモチーフを想起させるネタがテンコモリ。ただ『ロスジェネ』以上に読者の期待する通りに話が進んでしまうという展開ゆえ、小説には常に新味を求めるという進歩的な読者だとやや複雑な読後感を抱かれるやもしれません。

前作『ロスジェネ』が、陰で半沢を支える戦友とともに情報戦を駆使して最後には勝利を勝ち取るという、――定型に則った期待通りの展開を見せると同時に、バブル世代の半沢とロスジェネ世代の部下との確執と受容を描いていたのに比較すると、本作では”壊し屋”をはじめ、業界のイロハも知らないマドンナ(オエッ)政治家が大臣になって半沢を窮地に追い込んでいくという定番の流れは勿論、壊し屋と隠微な繋がりを持つ銀行内の敵までもが様々な陰謀を用いて半沢を陥れようとするなど、裏のテーマなどはそっちのけにしてとにかく漫画チックにして直線的な展開によって半沢の激闘を活写していきます。

漫画チックといえば、本作ではラスボスともいえる人物がいて、これが半沢の幼少時代にも通じるイヤーなトラウマを抱えてい、航空会社の再建をきっかけに半沢と対峙することになるのですが、壊し屋をはじめ政治家の敵方が悉く半沢の倍返しによって痛快な失脚をみせる一方、この人物だけは今回大した傷を受けていないことを鑑みるに、案外、次作ではこの人物が半沢の真の敵として立ちはだかる予感が、――というか、そうなってほしい気がします(爆)。

世間からは散々な目で見られる会社に属しながらも、リーマンとしての矜恃を見せる個々人の活躍を描いてみせた風格は前作以上に際だっており、今回は完全なる悪役といえば政治家どもに集約されているところがより予定調和にして漫画チックな雰囲気を深めています。しかしドラマによってキャラのイメージが固定化された現在であれば、こうした作風をより強化する方向での進化は大いにアリ、でしょう。そうしたドラマでのイメージの重なりを重視するファンに対しては、あの黒崎が半沢に思わぬサポートを見せるところがイイ。政治という闇を介すると敵の敵もまた味方になりえるというリアル社会の縮図を垣間見ることができる一方、衆愚の目ばかりを気にして日本社会をトンデモない方向へと扇動していく政治家たちの愚かさを明快・痛快に描いているところも心地よい。

期待通りに半沢の勝利で物語は終わるものの、ある人物の決断はチと意外、――いや、確かに政治家をも巻き込んだ今回の案件においてはこのオトシマエ以外はありえないわけですが、このあと半沢の処遇は、そして東京中央銀行はどうなっていくのか気になるところではあります。