オールドレンズ・ライフVol.4

オールドレンズ・ライフVol.4α7のオーナーで一応オールドレンズを使っているといっても、ヤシコンツァイスの汎用的なモンとタクマーしか所有していない自分ですが、今回の特集は「大口径主義」。まあ、何だかんだいってもノクチをはじめとする垂涎レンズは気になるわけで購入。期待に違わぬ内容で満足至極、であります。

冒頭を飾る特集『オールドレンズ・大口径主義』に取り上げられているレンズは、Noctilux-M 50mmF1.0をはじめ、Canon TV Lens 50mmF0.95, Ai Noct-Nikkor 58mmF1.2などなどなど。オールドレンズ・ライフはやはり作例が見所で、デジカメ Watch の作例みたいに「シロートが撮影みたいな構図もテキトーでとりあえず撮ってみましたッ!」みたいなものではなく、しっかりとした作品に仕上げながらも、それぞれのオールズレンズの癖や特徴が把握できる一枚となっているところが素晴らしい。

例えば、冒頭のNoctilux-Mでは何枚かの写真が掲載されているのですが、中距離のボケの癖をみせて「窓の外のボケ方が絵画的だ。ただ滑らかにボケるのではなく、ボケながらもディテールを伝うよという意志が伝わってくる」という解説がつけられています。シンプルな二線ボケとも違う、このレンズだからこそのボケ方をしっかりと読者に明示し、その癖を作品へと昇華させるためのヒントも同時に解説している作例といえるのではないでしょうか。

こうした作例を単なる作例ではなく、作品として紹介するという本シリーズの試みが十二分に感じられるのが、もう一つの特集「OLD LENS WORKS オールドレンズで作品を生む写真家たち」で、この冒頭につけられた惹句が素晴らしい。引用すると、

オールドレンズは絵筆に等しい存在だ。自らのイメージを具現化するため、あえて数十年前の古いレンズで写真を撮る。使いづらい上に収差が残り、端から見ると酔狂に映るかもしれない。しかし、それは単なる懐古主義と一線を画し、表現にかける熱意そのものだ。オールドレンズを通して描かれた、四名の写真家の世界観を感じてほしい。

米山、中山、一色、澤村四氏の作品と文章はそれぞれ素晴らしいものなのですが、今回は澤村氏の「パオロとフランチェスカ」が特にグッときました。『オールドレンズ擬人化少女』でも感じたことなのですが、もうこれはオールドレンズのエッセイというよりは、美しい一編の掌編と呼んでもよいのではないかと(爆)。避暑地の細道で見つけたキスドールの逸話を綴った文章と、過去から現在への時間軸を把握できる四枚の写真の組み合わせはまさに詩写真とでもいうべき仕上がりで、また氏がこの”事件”に感じた様々な感情を際だたせるため”作品”の一枚一枚に添えられた技法にも注目でしょうか。

「理不尽な暴力」に襲われ、痛々しい傷痕を晒しているキスドールの写真は、P.Angenieux Paris 25mmF0.95をPEN E-P3に装填して撮影されたもので、キスドールのディテールを見せるためややアンダーにふられてい、それが背景の暗部を黒く塗りつぶす効果を生み出しています。そしてこの写真の前、――いうなれば「理不尽な悪意」に襲われる前のキスドールの二体を撮影した写真はCONTAX Planar T* 50mmF1.4で撮影されているのですが、明るい白へと溶けていく美しい前ボケを見せたこのショットと対比させることで、「詩写真」の舞台背景をシッカリと説明しているところが素晴らしい。

『安価に楽しむ大口径オールドレンズ』は、冒頭の『オールドレンズ・大口径主義』と対をなす内容ながら、こちらはタイトルにもある通り、「安価」なレンスでもしっかりとした絵作りができることをアピールしているところがポイント。とはいえ、こういう特集をされてしまうと、紹介されたレンズの相場が微妙に値上がりしてしまうところが気がかりではあります(最近のCONTAXツァイスレンズの暴騰ぶりはまさに狂気の沙汰)。

「一鏡一道」は、いうなればオールドレンズに託した旅エッセイとでもいうべきもので、カメラ関連のムックではいわば定番ともいえる内容ですが、今回は画角とミラーレスゆえにレンズの画角がボディによって変幻する魅力とともに、望遠・標準・広角各のレンズの使いドコロをしっかりと文章に添えてあるところがイイ。

「カメラドレスアップの匠」は、――あんまりドレスアップに興味のない自分としてはアレながら、愛用しているULYSSESが取り上げられているのはちょっと嬉しかったです。この特集で取り上げられている工房とは異なり、ULYSSESはそんなにマニアックではないと感じていたので意外といえば意外でした。

Vol.2と違って『安価に楽しむ大口径オールドレンズ』でビギナーや自分のようなそれほどのマニアではないけどフツーにオールドレンズをフィルム時代から使っているユーザも今回はかなり愉しめるのではないでしょうか。オススメです。