前回のエントリである「成城学園創立100周年・成城大学文芸学部創設60周年記念講座「成城と本格推理小説」第二回「映画『幻肢』が完成するまで」@成城大学 その2」の続きです。
藤井: そしてロケハンが終わって、いざお祓いをすませ、撮影が始まります。撮影が始まるので……まずこれはちょっと撮影のところも簡単に、すごく短い映像なんですけれども……撮影の映像も用意してます。またちょっと簡単に撮影の中で、新人吉木遼君の奮闘記であったりとか、いろんなそういうことをお話ししたいなと思います。まあ、ちょっとTMSの撮影というのは書いては見たものの、おいといて、やっばりこの吉木君――主人公の吉木君が一番大変だったと思うので、舞台挨拶とか一緒に上がると『本当に監督が怖かったのでそのあとに演ったドラマが本当に楽しくてよかったです』みたいなことを凄い言われてショックだな、と思いながらも(笑い)……まあ、僕も現場になると結構、やっぱり阿呆かあほかみたいなかんじでやってしまうので吉木くんは凄い大変だったと思います。
で、それもその十日間しかない中で過去のシーン、回想のシーン、現代のシーンを撮らなきゃいけないっていうことがほぼ毎日あったんですけれど、回想のシーンっていうのは基本的に記憶を失う話なので、記憶があるときの彼女との美しい記憶のシーンなんですね。なのでこう、幸せなシーンがすごくあるんですけれども、現在のシーンっていうのはだいだい落ち込んでたりとか、足を折って松葉杖で歩いていたりとか、いろんな辛いことをしなきゃいけないのを交互に交互にやらなきゃいけない新人俳優、新人の主演とかすごく大変だったと思うんですけれども……吉木くんは今日来ていると思うんですけれども、吉木くんに一つだけ言いたいことがあって……撮影のシーンでこうやって皆さんの前で吉木くんが皆さんにスピーチをするというシーンがあって、そこで五回くらい噛んだんですね。そのときに「噛むな」って言って、「」頭に入っていないのか」って(言うと)「いや、すみません」。で、また(吉木君が)噛むんですけれども、気持ちが分かりますね(会場笑い)。この……どこを見て良いのかも判らないし。この場をもって吉木くん、すみませんでした。謝りたいと思います。
はい、吉木君はそのあと、いまドラマに出たりとか、色々と活躍しているので、それを見ているとすごく楽しいです。嬉しいです。そのあとに吉木くん、主役の雅人が遙というヒロインと一緒に喋るシーンで詩にまつわるエピソードが出てきます。その中でもおっきなのが、また林檎の話で、青い林檎と赤い林檎の話が出てくるんですけれども、それを考えて下さったのも島田先生で。林檎の話っていうのは、なぜ赤い林檎と青い林檎にしようかって言ったら、赤い林檎の方が本当は甘いってみんな思っているけれども、青い林檎の方が甘いんですね。事実っていうのを知らない。それをいっこの詩にして、その(林檎の実を)守っていた葉がなくなってしまうと……なんていうんですかね、栄養分が全部林檎にいって青い林檎が生まれるんだっていう、先生がそういうエピソードをつくってくれたときに、僕は絶対そういうエピソードはつくれないし……この映画の中ですごく好きなもののひとつなんですね。そこの詩は一字一句変えずに先生の詩のまま使っているんですけれども、あとで先生にこの詩の話とかも聞かせていただればなと自身も思っております。
そういうところはすごく先生に助けていただいたところが多いんですけれども、撮影の中で三つのカメラを使って脳の世界を表現したっていうのは、自分の中ではすごくやりたかったことで、まずはこの一番上の吉木君がいま映っているこの写真。これは皆さんが今使ってらっしゃるiPhoneで撮影しました。で、iPhoneを撮影に使った理由って言うのは、携帯電話で話しているっていうシーンを極力入れないようにしようっていうのは、台本をつくっているときから思っていて、最近すごくこう、携帯電話ですぐ……なんていうんですかね……会えちゃうし、すぐ連絡しちゃうということで、なにか凄くこう、さみしいなって、自分の中で思っている部分があって。その中でも、iPhoneが凄くいいなと思うのは、記憶のストックが凄くできることだなと思いました。
なので皆さん、旅行にいったときに最近iPhoneで全部写真を撮ったり動画を撮ったり、ってする人が凄く増えていると思いますし、携帯電話一個が記憶のツールになっているっていうのを、なんとか映像で使えたら面白いなと思って。まあ、あまり商業映画でiPhoneを使うってのはないと思うんですけれども、彼が記憶としてストックしてたものとしてiPhoneを使用しました。
で、あとはこの谷村さんがクレープを美味しそうに食べてる(写真)。これというのはですね、表現としては、吉木君の眼球っていうニュアンスです。これはGoProというですね、サーフィンだったりとか、スノボーとかをやったときに、頭につけたりする小っちゃいカメラなんですけど、すごくワイドで人の目のように使えるカメラが発売されていて、それをちょっと使ってみようかと思って、映画の中で取り入れてみました。で、なぜかというと、先ほど言った吉木くんのこちらに見えるのは、デバイス的な記憶――なんかちょっと難しい話になっちゃうんですけれども、まあ、物質的記憶として表現はできるんですけれども、吉木君が見た、雅人が見た記憶ってどういうふうに表現できるんだろうって思ったときに、やっぱりこう、回想シーンってすごく多いんですけれども、なんかこういう表現ってあんまり見たことがないな、っていうのが自分の中でやってみようと思ったきっかけで。TMSという治療を受けたときに記憶の旅みたいなシーンがばばばっーって始まるシーンがあるんですけれども、そういうときはこのカメラを基本的には使っております。
で、一番右のこれが基本的にはずーっと、ドラマパートを撮っているカメラで、REDのEPICという、いま流行の4Kカメラですね。4Kカメラで撮影しました。で、4Kカメラはすごく良かったんですけれども、その中でいろんな弊害も出てきますので、そちらはあとあとお話したいと思います。
その中でクランクアップが十二月二十四日で。これも簡単にちょっとしたエピソードの一つなんですけども、一日だけ撮影中に雨が降って、二十四日、十二月二十四日。クリスマス・イヴは予備日だったんですね。なので、雨が降ってしまったので、予備日を使わなきゃいけなくなったんです。で、そのときにやっぱり十二月二十四日に予定をもちろん入れているわけですね。家族だったりとか、クリスマスパーティーをしようとか。やっているときの、朝一のスタッフの態度がもう、今日で終わりだけど、まあまあ、ね……というかんじだったんですけれども、無事に終わったときは――あとでここはメイキング映像がちらっとありますが――みんな終わったときはわーっと嬉しそうなんですけど、案の定、打ち上げに来たのは五人くらいで(笑い)。すごくさみしい打ち上げでしたという記憶がございます。で、ちょっと撮影中にやはり照明をつくってたりとか、撮影の準備をしているときっていうのは、監督は役者と喋り……こう、役者さんがメイクをしているときとかすごく時間をもてあましているときもある、そのときに8ミリの映像をこう、ずっと撮ってました。それを、まあ、今回お見せしてよいとのことなので、簡単に二分半くらいの、ちょっと見づらい8ミリの映像なんですけれども、『幻肢』の音楽にのせてみていだたければと思います。
(メイキング映像の上映)
はい、こころなしか、みんなちょっと帰りたそうな感じを醸し出していたわけでございますが、はい、で、一応無事に撮影の方は終わりましてですね、本当に良いチームで出来たと思います。吉木君がコメントが下手っていうのは、毎日あんな感じで吉木君と笑いあいながらやってました。で、そのあとですね、ここはあまり――なんていうんですかね、皆さんも想像がつかないところだったりとか――編集から完成っていうのは、撮影してすぐにそれが完成するわけではなくてですね、ここにも書いてあるんですけど、クリスマス十二月二十四日に撮影が終わって、三月四日に初稿が完成して、初稿試写というのを迎えました。これはその日の安堵の表情の僕と島田先生。そして左がですね、ダビングルームというところで、 最後に皆さん、音を最終的に5.1chとか音の修正をしたりとか、そういうことをするところの作業場で、実質ここが一番最後の作業場なんですよね。
音が完成したら、そこでだいたいのものは完成してしまいます。そこであーやっと終わったね、よかったね、という瞬間の写真なんです――この写真でございます。で、今回――基本的には大きい映画でしたり、フィムルの映画だったりとかすると、編集まで監督がやるっていうのは凄く少ないことだと思うんですけれども、これもちょっと僕の会社のプロデューサにお願いして、まあ、編集は僕にやらせていただきたいと思ってますという旨を伝えてですね。自分の自宅で今回オフラインというですね、完成の前までの編集を自分の自宅でずっとやってました。その中でいろんなことがあったんですけれども、やはり自分の――でなぜそれを自分がやりたいかっていったら、今まで自分の感覚でずっと編集を繋いでたんですけれども、初めてメジャーの作品を撮った時に、それも凄く経験になって、素晴らしい編集技師さんに出会えたんですけれども、指示をするのが凄く難しいんですよね。今までは自分で指のように編集ツールを使って編集してたんですけれども、ここをもう少し短くしてくれ、長くしてくれ、っていう指示を編集技師さんにするっていう作業が最初はすごく戸惑ってしまって、うまく最初はコミュニケーションがとれなかったっていうのがあって、今回はその編集期間もタイトだったっていうことで、やっぱり自分でやってみたいなっていうことで、あとは結構プロダクション、制作会社のところにこまめにチェックにいけたりしたので、僕は今回この編集っていうのは凄く大変だったんですけれども。
最初にそのダビングルームっていう、最終の音をチェックするところで初めて島田先生に観ていただいたときに、『オー!ファーザー』の時ももちろんそうだったんですけれども、やはり原作者の方に観ていただくときが一番緊張する……その次、いや、それと同等にお客様に観ていただくときも緊張するんですけれども、一番、怖い、緊張するっていうか、逃げ出したいってなっちゃうのはやっぱり原作者の先生に観ていただくときで。映画を見終わったときに島田先生が立ち上がって拍手をしてくれたときに、凄くほっとしました。そのあとにいろんな作品の話を……ここはちょっとこうだったよね、とかそういう話をいっぱいしてくださったときに、僕の中で肩の荷が下りたということを覚えております(「成城学園創立100周年・成城大学文芸学部創設60周年記念講座「成城と本格推理小説」第二回「映画『幻肢』が完成するまで」@成城大学 その4」に続く)。