死呪の島 / 雪富 千晶紀

死呪の島 / 雪富 千晶紀第21回日本ホラー小説大賞受賞作。噂ではミステリ的にもなかなか、というのを耳にしていたので手に取ってみたのですが、なるほどと納得の仕上がりで堪能しました。

物語は、とある島に客船が漂着したことから、死者が復活したりといった怪異が発生。やがて村中から除け者にされている女の子の周囲でも人死にが相次ぎ、オカルトにハマっていたクラスメートが変死したのをきっかけに、不思議少女のことにホの字だったボーイが様々な怪異の謎を解くべく立ち上がるのだが、……という話。

前半はもっぱら村の因習と、神社にまつわるブツの不可思議なその配置などの謎解きなどが、村の中でも宗教的には偉い地位にある一族の次男の視点から語られていくのですが、死人が甦ったりという怪異がけっこうフツーに受け入れられてしまっているところは、ミステリというよりは完全にホラーながら、そうした怪異を操る首謀者は誰かというフーダニッドで読者を惹きつけていく趣向が秀逸です。探偵の出自そのものが一つの誤導になっていて、かれ自身が見事この奸計にハメられて、手ひどいしくじりを見せてくれるわけですが、ここからの後半は、不思議少女の視点も交えて、物語は呪いvs呪いといった一大スペクタクルなシーンへと展開していきます。

ある意味、人死にのミッシングリンクと、それを呪いと特定したあとの操りの首謀者を探していくフーダニットで読者の興味を惹きつけていく前半と、こうしたスペクタクルでハジけまくる後半ではその雰囲気に大きな差があり、人によってはこの大きな転調に違和感を覚えるやもしれません。自分の場合、この作中世界に対する印象が変わっていく転調はかなりの快感で、前半の、皆から除け者にされている少女と、彼女が気になるボーイが接近していく展開は綾辻氏の『Another』を彷彿とさせ、死者の復活にホラー風味も交えて流れていく中盤では、恒川光太郎か、はたまた南米のマジック・リアリズムかといった幻想的な筆致が冴えわたり、――といったフウに、完全に一つの物語として繋がっているにもかかわらず、それは様々な読みが愉しめる本作の魅力の一つと感じられました。

ミステリ読みとしては、やはりその伏線と誤導の巧みさにどうしても注目してしまうわけですが、ここでは上にも述べたとおり、探偵役のボーイの出自があるからこそ、独りよがりな推理を見せて、まさに犯人の術中にハマってしまうという趣向がイイ。カタストロフが始まるまさにその寸前で犯人の奸計によって一気に窮地に陥れられるボーイと、この大がかりな呪いの出自と所以を解き明かすために、呪縛の主体となるヒロインの視点も交えて、二つのシーンを交互に語っていく後半から、物語はスピードを増して、――というか、悪くいうとやや駆け足で意想外な過去との関わりが明かされていくのですが、この逸話と村の呪いを結びつける展開はかなりの豪腕(爆)。

しかしこのヒロインの過去が語られると同時に、二つの呪いが重なり合う真相は何とももの悲しく、とくにヒロインが救われるシーンにおいて傍点つきで明かされるあるものの正体は赦しと浄化を象徴する本作でも白眉の逸話といえ、これがまた海原という物語の舞台と融合する見せ方も素晴らしい。

呪いvs呪いといった怪異の骨格を構成する一方の側については、前半で『魚が出てくるから、これってクトゥルーもので、最後にはインスマウスがゾロゾロ出てきて大パニックってオチじゃあ……』などと甘く見ていたので、個人的にはこの正体はかなり意外でした。前半と後半の風格の乖離はもとより、村の側にまつわる呪いと、それと相対する呪いの正体など、相容れないように見えるものとを強引に結びつけて一つの物語へと昇華させてしまう才能はかなり貴重で、次作は、本作の後半の風格を踏襲してキングも真っ青のパニックものでくるのか、あるいは前半のマジック・リアリズムめく幻想的な筆致をフル稼働して美しい怪談物語を紡いでくれるのか、はたまたその伏線回収の妙を活かしたホラー・ミステリーでくるのか、――まったく予想できません。ここ最近の角川ホラー大賞の作家のなかでは、その幻視と幻想溢れる物語世界から、個人的には恒川光太郎以来の逸材、というカンジがします。これはもう、オススメでしょう。