首なし男と踊る生首 / 門前 典之

首なし男と踊る生首 /  門前 典之仕事が一段落したら眼の調子が少しだけ戻ってきたので、積読状態だった紙本を慌てて読み進めているところなのですが(またどうせもう少ししたら眼の調子が元に戻ることは明らかなので)、まずはミステリー・リーグの一冊から。物語は、嵐の夜、首なし男が密室中で斧をふるい、やがて古井戸の中からは体を奇妙に装飾された屍体がゴロゴロ出てきたさア大変。果たして犯人とおぼしき社長の部屋からは今回の犯行をトレースしたかのごとき殺人計画書が発見され、――という話。

いつも通りの屍体遊びは健在、――というか、今回は複数の屍体を使ってあんなことこんなことできたらいいな、という奇想が爆発した真相にニヤニヤしてしまうのですけど、本作では、DNA鑑定の陥穽を突いたシンプルなトリックなど、フーダニットの仕掛けには実直な下地が用意されていることに注目、でしょうか。その上で嵐の不可抗力によって生じた幻想的な謎を開示して、読者を翻弄してみせる構図が素晴らしい。首の出現と消失、さらには複数人物の証言の矛盾から一つの道筋をたてていく探偵の推理は、全てが犯人の意図によって操作されているわけではなく、様々なハプニングによって生じたものである、――という、御大直系の本格ミステリの趣向を鑑みれば十分に納得できるもので、その意味では個人的には古井戸から発見された屍体遊びが本作一番のキモであると感じた次第。

件の計画書から醸し出される違和感をも伏線として、探偵がDNA鑑定に疑義を唱えていく推理のプロセスは上にも述べた通り実直なものながら、そこで本格ミステリでは古典的ともいえるある事象が発生していたとしても、そこから古井戸の屍体遊びへと飛躍する展開こそは作者の真骨頂。過去作の「カブトムシ」も奇想の情景として秀逸でしたが、古井戸でコレをアレしてナニをしてと悪戦苦闘しているシーンを想像するに、そもそもこういうことが発想できてしまう作者のキ印めいた発想法がキモチイイ。『浮遊封館』のようなキモチ悪過ぎる大ネタが事件の構図の背景にあるわけではなく、いうなれば複数の趣向を巧みに組み合わせた手法はやや煩雑に見えるものの、その無茶すぎる組み合わせはやはり作者でしかなしえない独擅場といえるでしょう。

昔の伝説を引用して煩雑に見える事件の構図に怪奇の風格をもたせているところは、小島正樹氏の一連の作品にも通じる気がするものの、それでいて情感を排除したドライにしてアッサリとした幕引きも作者の個性といえるでしょう。最凶のイヤミスである『浮遊封館』に比較すると衝撃は穏やかですが、作者ならではの屍体遊びは健在ゆえ、氏のファンであれば安心して愉しめる一冊といえるのではないでしょうか。