コレクターズ・クラブ / 佐伯香也子

コレクターズ・クラブ / 佐伯香也子アニスタ神殿記』が幻想小説としてあまりに素晴らしかったので、調子に乗って作者の他の作品も読んでみることにしました。まずは手頃なこの作品を、――ということで手に取ったのですが、1の「リナ」、そして2の「芳春」ともに完全にSM小説(爆)。ノンケな一般人にとっては目を背けたくなるような、ほとんど拷問に近い調教が繰り返されるという作風なのですが、1のリアルな虐待ぶりに辟易してもそこはジッと我慢の子で、2までをイッキ読みされことをオススメします。

本作は、「人間の飼育を趣味にする者たちの特別なクラブ」に寄せられた会員からのビデオ・レターを披露するという形式で進められていくのですが、この趣向が「芳春」の幕引きで見事に活かされた結構が素晴らしい。

「リナ」は、ドM女に公衆脱糞など様々なお仕置きをするシーンが連続して語られていくという、ある意味SM小説としては非常にオーソドックスなもので、これだけであれば、ただの官能小説の一冊として強く推すこともなかったのですが、この「リナ」から一転して「芳春」では、一人の女を便器にしてしまいたいと妄想するキ印男の独白がビデオ形式で描かれていきます。ネチっこく一人のか弱い娘、――といってもこの女性もまた幼い頃から食糞に興味を持っていたという変態女なのですが、この女性を一体の便器を仕立て上げるべく、食事方法から体を強制的に便器にしてしまうギプスなど、かなりのディテールを凝らして執拗にその調教の様子が語られていく展開はかなり辛い。調教と書きましたが、「リナ」では確かにノーマルな官能小説をハードにしたような内容ながら、これが「芳春」にいたると、その内容は調教というよりはむしろ肉体改造に近く、この風格に『家畜人ヤプー』の系譜を感じ取ってニンマリする御仁もおられるのではないでしょうか。

官能小説における肉体改造といえば、マドンナメイトを主戦場として活躍する柚木郁人が想起されるものの、あちらは、外科的手段によって有無を言わさずに美少女たちの体を性欲の玩具に貶めてしまう一方、奈落へと堕ちる美少女たちの戸籍を改変するなどさまざまな行為によって、女性の自我崩壊を促すという、――いうなればまだ奴隷を、否、奴隷だからこそ美少女たちの自意識を尊重しているともいえるわけですが、本作の「芳春」にいたっては、人ではなく「モノ」へと改造してしまうという点で、完全に官能小説の枠組みを超えて、幻想小説へと突き抜けてしまっているような気がするのですが、いかがでしょう。

肉体改造によるモノ化といった酷薄な展開に、眼を背けたくなるようなリアリズムの筆致によって描かれるその様子は完全にアッチの世界の話ながら、ビデオ・レター形式によって語られる結構に凝らされた小説ならではの仕掛で明かされる「芳春」の非業には感心することしきり、……といっても、あそこまでやればこの結末は当然ともいえるわけですが(爆)、作者の創作者としてのベクトルは明快な官能小説ではなく、むしろ幻想小説に近しいことを確認できただけでも大きな収穫でありました。決して万人にオススメできる小説ではありませんが、宇能鴻一郎御大や戸川昌子女王の作品が大好きッ、なんていうキワモノマニアであればかなり愉しめるような気がします。あくまで取り扱い注意、ということで。