『呪怨』のノベライズといえば前作の『呪怨 終わりの始まり』にいたるまでずーっと敬愛する大石圭氏がこなしてきたものの、少し前の氏の日記に多忙のため今回はナシと書かれていたのを眼にしてガッカリ至極。そうして大石氏の手から離れてリリースされたのが本作らしいのですが、……堀江純子――聞いたことのない名前ではありますが、大切なのはその内容。結論からいってしまうと、……悪くはありません。ただ、大石氏リスペクトの人が手に取ると、その作風の余りの違いに愕然としてしまうこと間違いナシなので取り扱い注意といえるカモしれません。
内容について簡単に言及しておきますと、今回は映画のストーリー展開がそうなのか、妙にテンポがせわしないところが違和感アリ。ぬーっと白塗りのとしお君が出てきたりと和モノホラーならではのさりげなさから醸し出される不気味さが当初の呪怨シリーズのウリだったかと思うのですが、本作ではとにかくとしお君が神出鬼没にご登場、さらには伽椰子も伽椰子で例のゼンマイみたいなだみ声をあげて大活躍という激しさで、二人がドバーっと出没すると、今度は男も女もド派手な悲鳴をあげて大騒ぎ、――というルーチンがひたすら繰り返されてせわしないことこの上ない(苦笑)。
大石バージョンでは定番ともいえる伽椰子愛も本作においてはナッシングで、そのあたりが伽椰子ファンとしてはチと寂しいものの、その代わりに本作では白塗りのとしお君が大活躍。ノベライズの前作『呪怨 終わりの始まり』が『呪怨』効果の拡散に焦点を当てて物語が展開していたのに比較すると、本作ではプロローグでも暗示されている病弱の娘ッ子を巻き込んでとしお君が憎悪の憑依を成し遂げるという展開がいかにも「らしくて」素晴らしい。実際、本作のジャケもとしお君を右上にデーンと配置して、その脇にはこれまた大きく娘っ子を配置したデザインとなっています。
さて、大石版と今回の堀江版との違いでありますが、上にも述べた伽椰子愛のほかには、やはりスピーディーな展開が挙げられるでしょうか。ホラー・ジャパネスクらしくない性急な展開はメリケンホラーのごとき速度でズンズンと突き進んでいくのですが、その疾走感は堀江版ならではの個性だと思います。一応、映画の『呪怨』もこれで見納めということになっているらしいので、ノベライズもまたこれでオシマイということになるかと思うのですが、本作で獲得した疾走感ととしお君の憑依・継承という趣向からジャパネスクを脱した新たな展開が期待できそうな予感もするだけにシリーズ終了は残念です。
今回のノベライズの主役である堀江純子氏の本は検索してもアンマリ出てこないので、作者の実力もまた未知数ではありますが、ちょっとオリジナルも読んでみたい気がしてきました。大石氏も大ブレイクのきっかけを摑んだ『呪怨』のノベライズですから、案外、今回の仕事をきっかけに角川ホラー文庫でオリジナルの小説をリリースしてくれるカモしれせん。そのときはまた手に取ってみたいと思います。