先日のエントリで、台湾の林瑪黛 Ma-te-Lin『房間裡的動物』を紹介したので、今回はもうひとつ、台湾のお気に入りのバンドを取り上げてみたいと思います。Triple Deerは、台湾・新竹のポストロックバンドで、その編成はギター×2(冠宇、永純)、ベース(Moto)、ドラム(貢丸)、シンセ(Curits)の五人。このインタビュー記事を読むと、昔はボーカルもいて、明確にポストロックとカテゴライズされるような音楽を演していたわけではなかったようで、ボーカルが抜けたあと、ポストロックバンドへと大きく成長を遂げたようです。
それにしても自分のようなロートルのプログレファンにとって、もっとも扱いに困るのがこのポスト・ロックという”ジャンル”でありまして、上の記事でギターの永純が語っている通り、「他のジャンルと比較すると、ポストロックには、これといった制限も様式もなく」、「使用する楽器の編成、和声や曲進行、奏法にもとらわれない」、――いわゆる”何でもアリ”がゆえに、ポストロックとひとくくりにして、聴いてみるまでいったいどんな音なのかマッタク想像できないところが何というか、……興味深い(爆)。今回のEPも完全にジャケ買いで、音も聴かずにチャレンジしてみた次第ですが、結論からいうとこれが大当たり。まさに自分好みの音で、林瑪黛 Ma-te-Linのアルバムともども毎日聴いています。
台湾のポストロックバンドということで、やはりSelfkillと比較するのがもっともふさわしいのかと思うのですが、『公路白』や『雨停了之後?』などを聴いた限りの感触としては、Selfkillが直線的な曲展開でむしろオーソドックスなロックの”ノリ”を未だ残しているのに対して、Triple Deerの本作は、緩急と動静をかなり意識した曲構成に強い個性が感じられます。特に本作の最後を飾る「花的名字」は9分近い大作で、4分を過ぎたあたりで曲の終わりを思わせながら、プログレっぽいフックを効かせて再び盛りあがりを見せていく展開など、聴く者の耳を意識した曲構成が素晴らしい。リズムが決して平面的ではなく、さりげなく手数の多いドラムや、ギター二人の音色の使い分けなど、考え抜かれた展開と構成はまさに一聴の価値アリでしょう。
それに近いバンド、――ということで最初の「門」を聴いたときにまず思い浮かべたのが、The Album Leafだったのですが、Triple Deerはもう少し浮遊感をもたせたトーンが曲全体に覆ってい、このあたりはまさにSigur Rosなど、良質のポストロックが持ち得る静謐な風格を感じさせます。ギターの音色も心地よく、清涼感のあるEPはまさにうだるような暑さの今に相応しい一枚といえるのではないでしょうか。次回はフルアルバムでこの音色にドップリ浸かりたいと思わせる傑作です。オススメ、でしょう。