東京結合人間 / 白井 智之

20160101-2傑作。処女作となる『人間の顔は食べづらい』も、食用のために生成される人間クローンというグロすぎる着想から素晴らしいロジックが展開される逸品でしたが、本作ではそうしたグロにネットリとしたエロも加えてキワモノ度は何倍もパワーアップ。それに加えて決して色モノのみに走ることなく、キモ過ぎる舞台設定から編み出される仕掛けとロジックも前作を凌ぐ出来映えで、堪能しました。

物語は、男女がアナルセックス(?)をして一つの肉体に結合することが当たり前という異世界で、嘘をつけない異形の者たちが集う島を舞台に奇怪な殺人事件が発生し、――という話。強引に数行でまとめてしまうと何がなんだがなわけですが、タイトルにもある結合人間へと変容する冒頭のシーンからして、そのキワモノぶりは相当なもの。結合人間と、この世界では異形のものであるオネストマンという嘘をつけない人間、さらには性病めいた奇病など、とにかく作者の奇想が爆発した設定が次々と繰り出される前半だけでも相当にお腹がイッパイになってしまうのですが、そうした個性的に過ぎる物語世界の設定をただダラダラと説明するのではなく、平山ワールドを彷彿とさせる鬼畜な物語によって底辺に生きるゲス野郎たちの日常生活を活写していく構成もまた素晴らしい。もちろんここからすでにして後半に展開されるロジックを生み出す伏線が巧みに張り巡らされているのですが、そのあたりは軽くスルーしながら読み進めていっても没問題。

後半、ゲス野郎たちが映画撮影のために正直者の異業者たちを集めて孤島へと向かうのですが、本格ミステリーらしい事件が発生がするのはここからで、島に棲み着いていた者が死体となって見つかるも、決して嘘をつけない異形者たちが容疑者となればアッサリ事件は解決するかと思われたものの、事件はますます混迷し――。

容疑者たちは決して嘘をつけないという前提そのものを疑うべきであることは、すでに前半であからさまに描かれているため、勘の良い読者はもちろんそのあたりも考えて、その”まぎれ”が誰なのかという推理を進めていく筈なのですが、本作の場合これがまた一筋縄ではいかない。またまたコロシが発生し、探偵役の人物が丁寧なロジックを披露してフーダニットの帰結を見せるものの、これをさらにひっくり返して正直者たちが銘銘の意見を交えながら高度に緻密なロジックによって”まぎれ゛となる犯人を特定していく推理の素晴らしさにはゾクゾクしてしまいました。条件を明示しながら図解つきでこのロジックを判りやすく読者に繙いていくこのシーンが本作一番の見せ場ではないかと思われるものの、ロジックの恍惚の暁に事件は解決したかと思いきや、作者はさらにここでも異世界ならではの仕掛けを暴露してトンデモに過ぎる真相を開示して本作は幕を閉じます。

実を言うと、この最後の最期に披露されるトリックについては、まさに考えていた通りだったのですが(爆)、個人的にはこの前段のロジックの妙味をタップリと堪能できたので不満はまったくありません。探偵役の外連味溢れる推理によって定番の「孤島もの」の展開が終わるやいなや、今度は「ロジックもの」としても相当に高度な推理によってフーダニットの趣向へと変化を見せる二段目、さらには再びのどんでん返しでキワモノ・ミステリにふさわしいトリックにブラックな結末もプラスして物語を終わらせる作者のサービス精神には完全に脱帽です。

「孤島もの」「名探偵」「ロジック」「キワモノトリック」と、ここまで本格ミステリーの様々な魅力を一篇の物語にタップリと詰め込んだ作品はそうそう生まれる筈もなく、こんなトンデモな傑作を書いてしまった作者の次なる一手はいったいどんなものになるのか、――『人間の顔は食べづらい』からのキワモノ成分を増量させた変化は想像の範疇ではあったものの、ここまでロジックの魅力をつきつめてどんでん返しを繰り出す傑作をぶつけてくるとはマッタク予想できませんでした。早坂吝と並ぶキワモノミステリーの旗手として、作者にはこの路線を邁進していただきたいと願ってやみません。必読、でしょう。

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