断然好み。ジャケ帯には「手塚マインド溢れる本格SFアクション始動!」とある通りに、基本はSFなのですが、「手塚マインド」という言葉に要注目。昨今の難解で、自分のようなボンクラにはついていけないSFではなく、懐かしフレーバーがふんだんに鏤められた作風でタップリ堪能しました。
あらすじを簡単にまとめてしまうと、かつての恋人のパパが発明したアンドロイドとともに、捜査官の男性が謀略に満ち満ちた事件を解決する、――という話。ジャケには「俺は、死んだ恋人と同じ顔をしたアンドロイド――アイアン・レディとともに」……という独白が語られているのですが、「死んだ」といっても、実を言うと少しばかりニュアンスが異なります。このあたりを主人公が関わる事件の背景とし、さらには今後のシリーズ化を想起させる構成としたところが心憎い。
物語は、007シリーズのようにめまぐるしく舞台を変え、主人公がアンドロイドとともにワルのアジトへ踏み込み、激しい戦闘を繰り広げた挙げ句窮地を脱する、――ということが繰り返されるのですが、主人公が赴く先々で情報がダダ漏れであることから、内通者がいることが中盤で仄めかされる。ここに本格ミステリ的なフーダニットを凝らして、事件の黒幕と操りを二段構えとした結構が秀逸です。内通者についてはカンでこいつだろ、という予想はおおよそついてしまうのですが、その伏線として描かれるシーンでは非常にさりげなくシンプルなトリックを用いて、件の人物が主人公の行動を把握していたことが明かされる仕掛けを効かせて、謎解きの興味を引き立てている趣向が素晴らしい。
もっとも本作のキモはやはりジャケ帯にもあるSFアクションで、登場するワルのロボットも含めて、物語の前半にイラストが添えられています。このリストにさりげなくロビタが加わり、件のロボット博士のメイドをこなしているところなど、確かに「手塚マインド溢れる」雰囲気はタップリながら、個人的にはジャケ帯にもバッチリ描かれているアンドロイドのキャラの造詣がちょっと猫目でデカ眼だったりするところや、立て続けに爆発・戦闘シーンが繰り出される展開などから、個人的には柴田昌弘の漫画を想起してしまったのはナイショです。
で、この女形アンドロイドなのですが、博士の説明をそのまま引用すると、「この娘は食事もできるし、排泄もでき」、さらには「性器も付いている」というからタマらない。主人公にしてみれば、彼女は「死んだ恋人と同じ顔をし」ているというのだから、読者としては”そういう”シーンを期待してしまうのもやむなし、――かなわけですが、しかしながら、本作でアンドロイドとの”そういう”シーンはナッシングなので、その手の性癖をもたれた御仁も過度の期待は御法度でしょう(もっとも某作での虎女と”いたす”シーンほどではないにしろ、”そういう”描写はチョットだけオマケでついています)。
さらには『ギガンテス』を彷彿とさせるオノマトペは本作でも健在で、ロボットが激しい雄叫びをあげるシーンが随所に凝らされてい、ざっと引用すると、――グゥアッガァァ! ――グアアァァアア! ――ガアアアァァア! 「グワァァッ!」「グワァアッ!」「ギギャアアァァアアッ!」 ――ガアァッ!――グギャギャギャギャアア!――ガアアアァァァァ!――グガアァァァァアア!と盛大なコーラスを繰り広げたあと、最後はド派手に「グモモモモオォォオオォォモモモオオオォォ!」と息の長い絶叫をブチまけて黒幕の最終兵器がご臨終となるシーンなど、アイアン・レディの活躍とともにロボットの戦闘シーンには注目でしょう。こうしたシーンに「手塚マインド」以上に、「柴田マインド」を感じて手に汗を握りながらページをめくる手が止まらず、あっという間に読了してしまった次第です。
真の黒幕と主人公との複雑な背景を交えた対決はまだ始まったばかりだし、ヒロインとなるアイアン・レディが事件の終盤から次第に感情を見せてくる趣向など、ヒロインの成長にも焦点を当てて次作へと繋げていく展開が予想される本作、ならぬ本”シリーズ”。あとがきによれば、「第二弾、第三弾も、どんどん書いていきたいと思っている」とのことで、さらには次回は「密室殺人」を扱うとあれば、『ギガンテス』シリーズを彷彿とさせる世界の反転や本格魂溢れるトリックを駆使した物語を魅せてくれるのではないかと期待してしまいます。最近加筆して電子書籍化された怪作『宇宙捜査艦《ギガンテス》』ともども作者ならではのSFに浸るには恰好の一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。