邪し魔 / 友成 純一

邪し魔 / 友成 純一 昔からの作者のファンからは駄作認定されてしまうんじゃないかなァ、……なんて危惧される本作(爆)、しかしながら個人的にはなかなか愉しめました。その”勝因”はおそらくジャケ帯の惹句に欺されず、むしろギャグ成分濃厚なユルい物語であることを覚悟して読み始めていったためではないかと。逆にいうと、「女妖怪VS妻! ぼんくら男をめぐる壮絶バトルがいま始まる」なんていう惹句に期待して、全編これ魑魅魍魎たちが血みどろの闘いを繰り広げるようなストーリーを期待されると大きな肩すかしを食らってしまう可能性大がです。

物語は、バリで売春婦を買いまくってエッチ三昧の日々を送る色狂いのボンクラ男が、妖怪に魅入られて浦島気分を満喫していたところ、日本に置いてきた妻は旦那の危機を察知、単身バリに赴き、旦那捜しを始めるのだが、という話、――なんですが、まず物語が半分を過ぎるまでは、ボンクラ男のバリにおける女漁りの日常生活が延々と垂れ流されるとい構成が破天荒。ジャケ帯にあるようにバトルが「いま始まる」わけでは決してなく、作者の実体験と緻密なレポートを元にした(?)、この前半のバリ生活に付き合わないといけません。ここで鼻息も荒く「ダラダラしてないで、内臓ぐちゃどろの血みどろスプラッターはよ」なんてボヤいているようでは本作を十分に愉しむことはできないでしょう。

実際、妻がバリにやってきて旦那捜しを始め、件のバトルが始まるのは後半も後半で、その情景も血みどろスプラッターというよりは、好美のぼるあたりの懐かしきひばり漫画を彷彿とさせるハチャメチャぶりで、大出血サービスはほぼナッシング。村人たちも巻き込んで散々ひどい状態になりながらも、最後はみんなハッピーエンド、かな? ――みたいな明るい終わり方をするあたりは、ギャグに振り切った感が強く、このあたりもかなり評価の分かれるところでしょう。

とはいえ本作、自分は上にも述べた通り嫌いではありません。いや、むしろ偏愛したくなるというか。自分はスプラッターホラーというよりは、むしろ作中で主人公のボンクラ男を誘惑する女妖怪の出自が語られ、彼女が男と”楽園”で淫蕩ライフを過ごす展開に、異類婚姻譚や羽衣伝説など、日本の昔話や怪談にも通じるテイストを強く感じた次第で、同時に、ボンクラ男の日常を延々と描いた前半部をもっと切り詰めて、二人の生活をもっと濃密に描いて後半の爆発に繋げていたら、マジックレアリズムを彷彿とさせる恒川光太郎のような物語に仕上がったのではないか、なんて妄想をしてしまった次第です。

ホラー成分はかなり薄めで、流血も内臓もほんのチョッピリというおとなしめな一冊ゆえ、とにかく血を! 血を! もっと内臓がドバーッと飛び出すような激しいのが読みたいんダイ、なんていう血気盛んな御仁には強くオススメはできかねるものの、上にも述べたような異類婚姻譚にも通じる怪奇幻想の趣をご所望の方であれば、案外自分のようにマッタリと読む進めることで、ジャケ帯の惹句とはまた違った愉しみ方をできるような気がします。あくまで取扱注意、ということで。