好色入道 / 花房 観音

好色入道 / 花房 観音傑作。観音女史の処女作『花祀り』にも登場した怪僧・秀建を主要登場人物に据えた逸品で、堪能しました。ジャケ帯にあるあらすじをざっと引用してしまうと、「市長選挙間近の京都。美人ジャーナリスト・東院純子は、保守派のスキャンダルを探るため怪僧・秀建に接近するが、秘密の館で身も心も裸にされてしまう」とあるのですが、この純子が主人公というわけではありません。確かに作品の前半は、裏で暗躍する秀建に近づいた彼女が、まさにミイラ取りがミイラに、――というかんじで「花祀り」のヒロインと同様、秘密の館でトンデモない目にあってしまうというお話ではあるのですが、こののち、秀建たち京都を裏で統べる保守派(?)たちの擁立する市長選候補に大問題が発生、その代わりにと秀建が白羽の矢を立てた人物の視点も据えて、物語は進んでいきます。

基本的には、純子と市長選の候補者に担ぎ出された龍平の二人の視点が本作ではメインとなっているのですが、この視点の微妙な揺らぎが興味深い。ラスト・シーンを秀建の視点で締めくくるところも含めて、この三人に共通するのは、京都生まれ・京都育ちではない、いうなれば生粋の京都人ではない、外からやってきた人物というところでありまして、この外からの視点が、裏世界の人物と読者を橋渡しするような役割を担ってい、京都の内側と外側との重なりと異なりとを見比べながら解説を加えてくれる趣向が心憎い。

特にバリバリの京女を妻に持つ龍平の立ち位置は面白く、眼の前で展開されているトンデモない事柄に戸惑いつつ、それでも京都の闇にズブズブと取り込まれることなく、秀建をはじめとする登場人物たちを正確に分析してみせるキャラ設定がとてもヨカッタです。

そしてあらすじにもシッカリと名前付きで、本作の主要登場人物として二つの勢力の間を行き来する純子の、体と心の乖離に戸惑う内心がシッカリと描かれているところも秀逸で、秀建に抱かれその技巧の虜となった彼女が、秀建の心の裏を探ろうと試みていくなかで、次第に自分の心の綾を自ら繙いていく中盤の展開には強く惹かれました。彼女は両方の陣営、すなわち京都の「表」と「裏」とを行き来して狂言回しの役割をも担いつつ、陰謀に翻弄されてしまうという非常に可哀想な役回りなのですが、秀建のセラピーによって本当の自分に目覚めるところは『花祀り』を彷彿とさせます。

最後に秀建がトンデモない花火を打ち上げて一気に形勢逆転へと持ち込む後半は、読者の期待を裏切らない痛快さで魅せてくれるのですが、この大団円の後始末とでもいうべきラスト・シーン、――秀建が再び読者の前に再び現れる続編はあるのか、ないのか……個人的には是非とも見たいなあ、という気持ちでイッパイなのですが、どうなんでしょう。ややネタバレなので文字反転しますが、京都という魔窟の舞台あってこその本シリーズ(『花祀り』、そして本作)だとも思えるし、その一方で京都の闇が怪僧・秀建の手によって日本津々浦々へと拡散していくというトンデモない展開は、怖い見たさで興味のあるところだし、……というわけで、個人的には続編アリ、に期待したいと思います。『花祀り』を未読でも勿論愉しめるのですが、やはりあちら(特に「花散らし」)には眼を通されておいた方が、純子の目を通して描かれる秀建の心の哀切と闇をより深く理解できるような気がします。オススメでしょう。

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