「トランスレコード再発シリーズ」なんて企画が進行中であることなどまったく知らず、アマゾンで色々と検索をかけていたときにフと眼に入った本作。ジャケを眼にした途端、昔昔に聴いてみようと思いつながらもなかなか手に入れることができず、やがて忘れてしまったという一枚であることをふと思い出し、即購入に至った次第です。
冒頭の「ベイルート」は、変態的な高音が淡々と繰り返されるベースに、これまた不安定な線の細いボーカルにおぉっと思う暇もなく、ギターの音色で完全にノックアウト。これはもうマンマ初期CANのミヒャエル・カローリ(爆)ではないですかッ、とニンマリしながら今少し音に耳を澄ませてみると、一定のリズムを刻みながらやたらと手数も多いドラムもまた素晴らしい。退廃的な音色といい、生ぬるい現代ポップスとは一線を画する骨のある歌詞といい、これは文句なしに名曲でしょう。「アメリカ」はCANっぽいところこそ薄味ながら、やはりギターが印象に残ります。そして中盤の長い間奏のジャジーな展開も心地よい。
収録曲の中で一番の好みは、アルバムのタイトルにもなっている「死者」でしょうか。冒頭の爆発からホルガー・シューカイっぽいギターが炸裂し、淡々としたベースに重苦しいドラムのリズムの背後でやはりギターが様々な音色を奏でながら自己主張を企てる、――その緊張感はもう素晴らしいの一言で、「ベイルート」とはまた違ったCAN風味とともに、このバンドの強い個性をも感じることができます。このあたりは、美狂乱がどこまでもクリムゾンっぽくありながら、その全体像はクリムゾンと大きく異なるところと似ているような気もします。
「Numberless Land」からは未収録曲らしく、音質は一気に低下するのですが(苦笑)、それでもライブ一発録りっぽい緊張感がイイ。耳につくシンバルの音に紛れて、ベースはくぐもった音にしか聞こえていないのがやや残念ながら、ギターは期待通りの音展開で大満足。冒頭の爆発から疾走する「Spera」、ブルージーな「さよなら昭和」、「Christine」、前半に比較すると心地よいギターの音色から普通に聴けてしまう「霧」、不穏な緊張を孕んで展開する「Dancing Day」、ストレートな疾走感で押しまくる「光州」など、棄て曲なし。まさに名盤として心に残る一枚といえるのではないでしょうか。もちろん、聴く人の趣味嗜好を完全に選ぶ曲風なので、最近のヒットチャートにズラリと並んだ軽いポップスだけ聴いていれば人生大満足、なんていうリア充のヤングが手を出すと大火傷をしてしまうのでご注意のほどを。
なお、「トランスレコード再発シリーズ」の一枚としてリリースされた本作の解説は、ボーカルの中田剛氏で、これがなかなか面白い。北村氏が「ILL BONEでひと儲けを企んでい」て、「ティアーズ・フォー・フィアーズのような成功。売れると本機で考えていたのだから、北村さんはすごすぎる」なんていう逸話がさらりと語られているかと思えば、「石川のベースは「単調だ」と言われたりもするが、ほぼすべての責任は箕輪にある(彼女のベースこそ再評価されるべきだ、と私は思う)」というくだり。自分などは「単調だから、いいんジャン」と思うのですが、このあたりはやはりジャーマン・プログレに耳が慣れてないひとなどが聴くとまた違う感想を持たれるのカモしれません。
なお、トランスレコード再発シリーズでは、本作ともとに、YBO2とRUINSもリリースされているのですが、こちらはすべて持っているので、自分はひとまず保留でしょうか。