蝶の力学 警視庁捜査一課十一係 / 麻見和史

蝶の力学 警視庁捜査一課十一係 / 麻見和史塔子タンを主人公とする「警視庁捜査一課十一係」シリーズの最新作、――といっても、刊行されてからすでに数ヶ月経ってしまってますが……。あらすじは、金持ち男が殺害され、その妻が誘拐されるという事案が発生。やがてこの妻も変死体となって見つかるとともに、新聞社にはカタカナ交じりの犯行声明文が届けられる。果たして犯人は、――という話。

今回も十一係が一丸となって連続殺人事件に挑むという構成に変わりはないものの、ヒロインである塔子タンの先輩でもあり、またパートナーでもある鷹野が犯人に襲撃され途中で戦線離脱という事態が発生、彼女はよりいっそう捜査の最前線に立って奮闘するという展開が新機軸。このシリーズに限らず、作者の作品の見所は、ハウダニットやシンプルなフーダニットではなく、後半のサスペンスも交えた謎解きによって複数の登場人物たちが織りなす事件の構図の妙が現れる趣向にアリ、と以前から感じているのですが、今回はタイトルにもなっている”蝶”に絡めて開陳される犯行の連鎖に注目でしょうか。

実をいえば、犯人の属性については鷹野が塔子タンにさらりと告げたアドバイスが大きなヒントとなっており、絶対にこの周辺の人物だろうと前半からアタリをつけていたのがドンピシャで(爆)、真犯人そのものに大きな驚きはなかったのですが、それでも件の人物がなぜこの事件を引き起こすにいたったのか、その背景や動機は後半にいたるまでマッタク判りませんでした。被害者の身辺調査を続けていくうちに、初っぱなに殺された金持ち男が相当のゲス野郎であることが明かされ、第一の死と第二の死、そして”犯人”の死によって終結したかに思われた事件の様相が、作中でさりげなく語られていた伏線によって明かされていく構成は、まさにこのシリーズならではのものでしょう。

トリックに関しては、車での逃走時に犯人が行っていた不可解な行動を明かして、そこから事件の動機に結びつけていくところや、なぜ妻が誘拐されたのか、その意味合いにしっかりと仕掛けを明かしていく推理部分が秀逸です。

本作は鷹野の戦線離脱のほか、物語の前半部分では彼が抱えている宿業が語られ、さらには事件が解決したあとで、彼が関わった過去の事件には恐るべき陰謀が、――みたいなことが予告されているところからして、新たなステージに入ったような雰囲気もあり、次作での新展開が待たれます。なんとなーく、『相棒』っぽくなってきたような気がしなくもないのですが(爆)、これもまた本シリーズのファンの裾野を増やしていくという戦略としては十分にアリでしょう。

また塔子タンの定番萌えボインである「と、届かない……」もしっかりと用意されている(しかも今回はかなり切羽詰まった状況)という作者のサービスぶりも微笑ましく、ドラマ化も後押ししてさらに注目されそうな予感、――とここまで書いてきてフとアマゾンを覗いてみたらなんと何と、三月二十三日現在、本作は「講談社ノベルス の 売れ筋ランキング」において堂々の第一位ッ! 怪作にして傑作である『誰も僕を裁けない』を抜いてもトップですからこれは凄い。このシリーズ、地味だからアンマリ人気ないんだろうなァ、……なんて感じていた自分の”筋読み”がマッタクの大ハズレであったことを反省至極、本シリーズのさらなる飛躍と次作の早い刊行を期して待ちたいと思います。