「確かにコロシはあるけど、アンマリ相撲とは関係ないし……」なんて前評判を耳にしていたので、本格ミステリとしての事件にはあまり注力せずに読み進めていったのですが、いやこれがなかなかどうして、メインの相撲と事件という二つの構図に、主人公である「探偵」を据えた趣向の巧みには関心至極、なかなか愉しめました。
あらすじは、抜群の分析力を持ちながらもその体格ゆえに勝負では負けが多いというボーイが、訳あってとんでもないド田舎に転校するも、そこで知り合った怪力女から請われるまま、蛙の神様からの相談を受け持つことになって、――という話。
いきなり蛙の神様が云々といっても何がなんだがという感じですが、この奇妙な村というのが、古来より蛙を神様と崇めており、怪力娘の家系では代々この蛙の神様と話ができる女の子がいて、――という奇天烈な設定をどう殺人事件と結びつけていくのか、というのが本作の一つのキモ、でしょうか。蛙の神様からの依頼というのが、外からやってきた外来蛙の相撲に勝つためそなたの相撲に関する知見と分析力を活かして勝つ戦略をご教授いただきたい、というもので、ボーイは怪力娘をいわば通訳として神様が勝つための稽古に励む渦中で、トランク詰めの死体が発見されるという事件が発生。ボーイがその分析・推理力を活かして件の事件の真相を探っていくという傍線が用意されています。
蛙相撲とトランク事件との関わりについては、トランクの中に蛙がいたという緩い繋がりがあるものの、こうした事件の構成要素として連関よりも、本作においては、事件を解決に導いたボーイの推理には陥穽があり、それが逆に真相を導くかたちになったというロジックによって二つの逸話を重ねた趣向が面白い。事件の解決前に、ボーイはこの村に伝わる因習と蛙相撲の真実を探り当て、怪力娘と蛙の神様を同時に欺くような手際を見せて、ある”救済”をはかるのですが、こうした彼の采配にも、事件を解決してみせた推理同様に「大きな見落とし」があることに気がついてからの展開がイイ。
その二つの「見落とし」がともにボーイがまだ大人ではないがゆえのリアルに起因し、その気づきから「探偵」であり蛙相撲においても主導権を握っていたボーイは、ある人物に操られていたことが明かされる構図の妙が秀逸で、「探偵」が蛙相撲に介在するにいたる経緯とその背景の真相に、作者の某作品を思い浮かべてしまったのは自分だけではない筈です。これによって本作を甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガールの物語へと昇華させた作者の手際もまた素晴らしい。
蛙相撲と本格ミステリ的な事件の謎解きの二つにおいて、構成要素としての繋がりは確かに薄いとはいえ、「探偵」でありまた一人の少年であるボーイのロジックの陥穽を双方の逸話にひそませ、それによって二つの逸話を重ねてみせた構成、――作者としてはこちらの方がメインだったのでは、と感じさせる本作。ボーイとの未来を予感させるある人物の隠された心情を明かした後日談的な逸話は、ボーイ・ミーツ・ガールとしてのベタすぎるかな、とロートルの自分などは感じてしまうのですが(爆)、講談社タイガというレーベルの購買層を考えれば(?)こうした流れは十分にアリでしょう。そのほか、蛙の神様に関する神隠し的な怪異に、七〇年代ホラーを思い出してニヤニヤしてしまったのはナイショです。