優雅なる監禁 / 大石 圭

優雅なる監禁 / 大石 圭 あらすじ紹介に「エロティック・リベンジホラー」とある通りの一冊で、正直言うとちょっと物足りなかったかなァ、……と言う感じもするのですが、やはり名作『蜘蛛と蝶』以後はどうも評価が辛くなってしまいます。もっとも期待通りと言えばその通りで、読了後スカッとする意味では確かにリベンジという言葉通りの爽快さを味わえる佳作といえるでしょう。

あらすじは、大学時代からの知り合いでもある双子兄弟。彼らが経営する歯科医院で働くクリスチャンの女性が、二人からのプロポーズを断ったばかりに監禁されてしまって、――という話。監禁ネタは大石ワールドではもう定番中の定番ではありますが、本作では彼女がどのような知略を凝らしてここから脱出するのかがひとつの見所といえるでしょう。双子兄弟とはいえ、二人はお互いを子供の頃からライバル視しており、「二人で一人の女性を独占する」のではなく(これだったら平山ワールドっぽい)、「二人のどちらかを彼女が選ぶ」というルールにしてしまっている点でもう、男二人が女の知略に屈服のはもう明らか(爆)。実際、この弱味につけ込んで彼女は見事窮地を脱することになるのですが、この展開にもう一工夫欲しかったかなァ、……というのは求めすぎでしょうか。例えば彼女はインコを飼っており、無理をいって監禁部屋にこの鳥を運んでもらうのですが、自分はすっかりこのインコが脱出不可能なこの場所からの突破口となる伏線だと勘違いをしてしまい(苦笑)、あっさりとこのネタが活かされずに復讐劇へと転じていく展開にはチと吃驚。

もっとも一息に二人をお陀仏にするのではなく、二人の男の心理につけいり、じわじわと壊していくやりかたは『殺人勤務医』の拷問を彷彿とさせます。監禁部屋に設置されている監視カメラがその残酷さに一役買っており、これがまた彼女の脱出を手助けする一因ともなっている趣向が面白い。特に彼女が見事脱出を果たしたあと、監視カメラの映像だけが見えて相手方には声が聞こえないということの恐ろしさには思わずぞーっとなってしまいました。このあたりはかなりホラー。

エロに関していえば大石ワールドでは定番中の定番である肛虐・口虐がタップリと凝らしてあるのは期待通りとはいえ、今回は彼女が二人を陥れるため、自らが男に口淫を要求するところが真新しい趣向といえるでしょうか。また双子兄弟とヒロインの語りによって三人の過去が次第に明かされていき、それが現在の境遇と交錯する構成は大石ワールドの定石ですが、今回は兄弟二人のうちに蟠る憎悪・嫌悪がこれら過去の逸話によって炙り出されていく流れが素晴らしいと感じました。

最後、船上のアクションはなんだかビジュアル映えする素晴らしさで、力自慢の男がまず彼女にアレをされて狂乱するシーンにゾクゾクしつつ、最後は期待通りの終わり方をみせるのですが、これ、……絶望的なハッピーエンドになっていないよネ?……彼女は果たして無事、現実社会に復帰できるのかどうかかなり心配になってしまいました。『アンダー・ユア・ベッド』などと違って、彼女は元の生活に戻ろうとする気マンマンなのですが、これはちょっと穴だらけで、警察を欺くことはかなり難しいような……。結局彼女は収監されて「畜生! 畜生!」とわめき散らす愁嘆場をみせて人生ジ・エンドなってしまう予感が……(爆)。

シンプルな構成で、カタルシスをめいっぱい感じることのできる物語で、大石小説の中ではかなりカジュアルな一冊といえるでしょう。ディープなファンにはやや物足りなく感じるのではないかと危惧されるものの、多くある作品群の中からまずはここから、と本作より大石ワールドに深みにハマってしまうのも十分にアリだと思います。