双蛇密室 / 早坂 吝

噂通りにバカミスであることは明々白々なのですが、個人的には”絶対に当てられないフーダニットもの”として高評価されるべき逸品と感じました。『誰も僕を裁けない』でちょっと真面目なところを見せたかと思っていたら、こういう大技でハズシにくる作者の悪戯心が二重丸。個人的には『誰も僕を裁けない』の方が好みですが、蛇女や怪しい兄弟などを登場させて”ひばり”っぽい怪奇趣味を添えつつコンパクトにまとめた本作の方が断然好み、という人がいても納得です。

物語は、刑事がうなされる不思議な悪夢には、彼が過去に体験したある出来事に端を発するとにらんだ援交探偵らいちは、彼とともにその夢の謎解きをしようと彼の実家を訪れる。そこでは過去に密室事件が発生していて、――という話。

夢のシーンの解釈に錯誤を添えてさりげない真相の伏線としているところなど、このテの過去の事件の謎解きには定番の趣向を見せながら、やはり本作の妙味は密室事件がメインと思わせつつ驚天動地のフーダニットを提示してみせた仕掛けでしょう。タイトルにもある蛇を夢のシーンと過去の事件へふんだんに配して、蛇づくしに物語が展開されるなか、怪しげな蛇女や兄弟など、この作者にしては、おや? と思わせる怪奇趣味溢れる登場人物の活躍・暗躍から、蛇の特性を活かしたトリックの謎解きを開陳してハイオシマイかと思いきや、――その後にブチまけられる「事件史上、いや人類史上初」とらいちが高らかに宣言するその「犯行方法」にはまさに口アングリ。

……といいつつ、毒死した兄弟の片割れにソレが「いつ」「どこ」で注入されたのか、それについては自分もエロミスっぽい真相を思いついていたのですが、作者が用意していたネタのバカバカしさはさらにその上を行くものでした。この趣向をハウダニットとせず、敢えてフーダニットものとして開示してみせる展開が素晴らしく、そこから夢解きを経て、ある人物の内心に隠された凶暴な人間性を、作中の被害者と重ねてみせることでおそるべき犯人像に強烈なトラウマを埋め込む悪魔主義もかなりエグい。

この過去と現在の二人の人物の重なりに、探偵であるらいち自身が絡んでいる企みが秀逸で、彼女の口から「あなたの罪と罰はあなたが決めてく」れと迫ってくる不条理や、事件のおそるべき真相を関係者につきつけながらも、「だって他人事だもん」と軽く流してしまうらいちの恐ろしさ、えげつなさ。それでいて「それだけで真実を追い続けるのは危険よ。だって隠されている真実が、隠したままにしていることよりずっと怖いものだったらどうするの。そのときあなたはどこに逃げるの」というダメ押しの一撃を食らわせ、「だから人はどうしようもない真実にぶつかった時、探偵になるしかないのよ。真実を楽しまなきゃ」という”名言”を残して颯爽と立ち去るその姿は、作者の探偵像を反映しているのか、それとも単なるギャグなのか、――気になるところです。

ともあれ、平成のバスミス史にしっかりクッキリと名前を残したであろう本作、読者の期待値を悠々と超えてみせたその衝撃ゆえ、大真面目な読み手はスルーするのが吉ながら、バカであるほど面白いという好事家であれば必読の一冊と言えるのではないでしょうか。オススメです。

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